指原莉乃、渡辺美優紀、佐々木彩夏……アイドルによるプロデュース増えた背景とは? 過渡期を迎えたシーンの潮流

セルフプロデュースの方がやりやすい

 「オトナ」のプロデューサーを不要とする、という流れのひとつに「セルフプロデュース」がある。これは「オトナ」に指揮を執ってもらうのではなく、メンバー自身がプロデューサーを兼任してグループを作りあげていく仕組みだ。佐々木の浪江女子発組合はこのシステムをモデルとしており、ほかにも劇場版ゴキゲン帝国Ω、爆裂女子-BURST GIRL-などもセルフプロデュースで運営している。つまり「選手兼監督」というわけだ。

 新型コロナの影響もあって、これまで同様のライブ活動は難しく、「オトナ」にとってビジネスとしてアイドルの運営や新規の立ち上げがしづらくなった今、セルフプロデュースのアイドルが増えるのではないかと筆者は推測している。

 大阪にステラシュガレットという、筆者が注目中のセルフプロデュースのグループがいる。同グループは、ミスiD 2020のファイナリストである、せかいちゃん(ミスiD時の名前は、この世界は終了しました。)がメンバーとプロデューサーを兼ねている。

 彼女に、なぜ「オトナ」を立てずにセルフプロデュースで活動しているのか尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「自分たちで統括できる分、やりたいことがあればすぐに動くことができる。オトナがいたら、まずその人を説得するところから始めなきゃいけない。そうなると時間がすごくかかってしまう。スピード感が全然違うんです。ステラシュガレットは曲も私が作っています。デザインワークはメンバーが協力してくれる。ちょっと頑張って勉強すれば、自分たちで出来ることばかりなので」

 「オトナ」がやりたいこととメンバーの意見が食い違う場面を、筆者も数多く目の当たりにしてきた。世代的な価値観や感覚のズレもあってか、メンバーからすれば納得できないことも多々あるのだろう。こうなったとき、プロデューサー側の言い分は「活動費はこちらが出しているんだから指示に従いなさい」となるわけだ。

 「オトナ」に指示され、消化しきれない思いを抱えるくらいなら、セルフプロデュースで、成功しても失敗しても「自分たちが決めたことだから」と納得の上で活動した方が確かに晴々とするだろう。せかいちゃんも「セルフプロデュースの方がやりやすい」と率直に語ってくれた。

 逆に、「オトナ」がいないことで大変な部分はどこだろうか。せかいちゃんは「ライブ当日は忙しいので、誰かに手伝ってほしいときはあります。音源をPAさんに渡したり、各グループの関係者のみなさんに挨拶回りをしたり。ただ、そのためにプロデューサーをやってもらう必要はない。現状では、やっぱりそれらも自分たちで出来ることなので」と、あえてプロデューサーを据える理由は感じないという。むしろ、プロデューサーである彼女の指示に従える「オトナ」が必要なのではないか。

後を絶たない事務所やプロデューサーの問題が影響?

 昨今のプロデューサーや事務所が引き起こす事件・問題も、「オトナ」を要さなくなった理由に挙げられる。

 給料未払いは今でもある話だし、ほかにも意に添わぬ活動の強要、私的な関係の要求、プロデューサーの失踪、退所の際の圧力……と、結局は所属してみて初めて「ブラックな事務所」と分かったりする。事務所への所属はある意味、賭けみたいな状況なのだ。目を疑うような非常識がこの業界では頻発している。先日インタビューした地下アイドルも、かつて所属していた事務所について「入る前はすごく良いことを言われるんです。でも、入ってから話がいろいろ変わった。毎月もらえるお金は交通費1000円だけでした。事務所に入るときもお金を払わされました。それがトラウマになって、事務所に入るのが怖いんです」と話していた。

 その点、アイドルがアイドルをプロデュースすることで透明性が生まれ、それがアイドル志望者にとって安心材料となり、良い人材も集まりやすくなる。もしそのなかからスターが誕生すれば、アイドル業界全体の活性化につながる可能性もある。

 結局ここ数年のアイドル業界を見ていると、一般的に先行するのはネガティブなイメージばかり。アイドルのことをちゃんと考えてあげられなかったり、中途半端な姿勢で取り組んでいたりという「オトナ」が一定数いて、しかもなくならないのが現実だ。

 もちろん、真面目にがんばっている人たちはたくさんいる。また、すべての問題が「オトナ」にあるわけでもない。アイドルがステップアップするには「オトナ」の力がどこかで必要になってくる。そういうところも含めて過渡期を迎えているのではないだろうか。

 アイドルをプロデュースするアイドルの台頭によって、シーンが良い色に塗り替わることを期待したい。

■田辺ユウキ
大阪を拠点に、情報誌&サイト編集者を経て2010年にライターとして独立。映画・映像評論を中心にテレビ、アイドル、書籍、スポーツなど地上から地下まで広く考察。バンタン大阪校の映像論講師も担当。Twitter

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