金子厚武「アーティストの可能性を広げるサポートミュージシャン」

ギタリスト 西田修大が明かす、中村佳穂や君島大空との邂逅 そして今後の展望も

 中村佳穂、石若駿、君島大空、角銅真実……現在日本の音楽シーンを面白くしている気鋭の音楽家のライブを観に行くと、そこには必ずギタリスト・西田修大の姿がある。吉田ヨウヘイgroupのメンバーとして本格的なキャリアをスタートさせ、休止期間を挟む約7年の活動を経て、2019年2月バンドを脱退。現在は前述した名前をはじめとした様々なアーティストのライブやレコーディングに参加し、精力的に活動を続けている。ジャズを軸としたクロスオーバーがここ日本でも徐々に広がり、優れたプレイヤーたちがコレクティブな動きを見せる中にあって、西田のギターヒーロー然とした佇まいは確かな存在感を放ち、彼に対する注目度は日増しに高まっていると言えよう。今回はそんな西田が初めてこれまでのキャリアを振り返り、今後の展望までを語ったロングインタビュー後編(前編はこちら)をお届けする。(金子厚武)

「その人の音楽自体になりたい」

――中村佳穂さんとの出会いは、吉田ヨウヘイgroupでの対バンですか?

西田:そうです。2015年の12月に大阪でツーマンをして、ビートボクサーのRyo Tracksと2人だったんですけど、演奏はバッキバキだし、言ってることすごく入ってくるし、声も超好きだし、ホントすげえやつに出会っちゃったなって思って、びっくりしました。で、ライブ終わった後に「めちゃくちゃすごい」って伝えたら、「私も好き」と言ってくれて、「何か機会があれば一緒にやりましょう」ってなって、そうしたらホント次の月に「東京行くんで、この日一緒にやりませんか?」って連絡をくれて。

ーー当時の佳穂さんはまだバンドスタイルではなくて、各地でセッションをするスタイルでしたもんね。

西田:で、実際やってみて……まあその時は俺がね……(笑)。すげえ覚えてるんですけど、佳穂ちゃんと「たぶん3回くらいやったらよくなるね」って話して、「そうだね」って、ちょっと苦い感じも残しつつ、それから2年くらいはたまに会うって感じ。で、「きっとね」の原型ができたときに送ってくれて、めちゃくちゃすごい曲だなと思って、それを伝えたら、「今度よければ一緒にやってみましょう!」って言ってくれて。だから、最初の何カ月かは「きっとね」のギターソロだけ弾きに行く人だった気がする(笑)。で、その当時のライブは荒木(荒木正比呂)・深谷(深谷雄一)とのトリオでやってて、それもすごくかっこよくて憧れたから、「一緒にやりたい」ってお願いして、最初は名古屋のときだけゲストで参加する、みたいな感じでやってて、徐々に毎回参加するようになっていった感じですね。

――話を聞いてると、佳穂さんにしろ石若くんにしろ、もちろん西田くんのプレイを求めて声をかけたんだと思うけど、まず西田くんがその人たちのことをめちゃくちゃ好きになって、愛情の交換からスタートしてるような感じがするなって。

西田:この間も友達に「修大はホント好きになるとめちゃくちゃ好きになるから、そこがいいと思う」みたいなことを言ってもらって、あんまり考えたことなかったけど、なるほどなって。自分は別に博愛主義とかでは全然ないと思うんですけど、好きだと思ったら、いくらでも好きなところを言えるくらい好きになるから、そういうところはあるのかもしれない。自分が今一緒に音楽をやってるみんなは、もちろん音楽そのものも好きだし、ニワトリかタマゴかみたいな話ですけど、そもそも人としてめちゃくちゃ好きになって、一緒にやりたいと思うっていうのはありますね。

――もう一人、君島大空くんとの出会いについても教えてください。

西田:君島はもともと誰からともなくすげえやつがいると名前をよく聞いていて、そのうちセッションイベントで一緒になって。そのときもまあ爆発的に盛り上がったセッションではなかったんですけど(笑)、でも意気投合する部分があって、一緒にスタジオに入って、やっぱり超すげえやつだなと思うことがいっぱいあって。これも語り尽くせないんですが(笑)。で、Songbook Trioと君島と横須賀でツーマンをして、そのとき「ソロの弾き語りもこんなにいいんだ」と思って、どんどん惹かれていった感じです。

――バンドに参加するようになったきっかけは?

西田:去年の正月に君島が「遠視のコントラルト」を聴かせてくれて、「どう思う?」って聞かれたんです。で、めちゃくちゃよかったんですけど、あいつは本当に丁寧な人だから、「ギターはもっと乱暴なくらい思い切っちゃった方が、この曲はよりあなたが思った通りのものになると思う」みたいな、今思ってもすげえ偉そうなことを言って、そしたらもう次の日に「これでどうだ!」って、めちゃくちゃかっこいいのを送ってくれて。感動したんです。で、「これをライブでやるときは弾かせて欲しい!」って言ったら、その2カ月後くらいにライブがあって、そのときに呼んでくれて。和輝(新井和輝/Ba)と君島は付き合いが長いし、駿とも対バンしてからずっとやりとりを続けてたみたいで、あの合奏はホントただ彼が好きな友達を呼んでる感じだとは思うんです。でも、みんな忙しいから、初めてライブやる前も全然予定が合わなくて、当日初めて全員で合わせたんですよ(笑)。でも、実際合わせたらめちゃめちゃよくて、これは最高にわくわくするなって。

――現在はいろんなミュージシャンと活動をともにしているわけですが、バンドや楽曲ごとにもちろんプレイスタイルの違いはあるけど、それでもいつ観ても「西田くんのギター」という印象があって、そこも特別だなと感じます。

西田:さっき言ってもらったように、今俺はホントに好きなやつらと、ホントに好きな音楽をやれてるなってマジで思っていて、ホント恵まれてると思うし、幸せだと思ってるんです。で、これはすごく傲慢な言い方かもしれないですけど、俺には彼らを「サポートしてる」って気持ちはほとんどなくて、その人が見てるものを一緒に見たいというか、もっと言うと、その人の音楽自体になりたいと思っていて。俺は自我も強いし、十分目立ちたがり屋だと思うんですけど、彼らの音楽になることが、結局自分にとって一番かっこいいことだと思えるんですよね。だから、これは滅私奉公みたいな話ではなくて(笑)、ホントに自分の欲求としてそうなんです。

――中村佳穂BANDはそもそも編成が特殊だし、いまステージがどんどん大きくなっていて、それに伴う変化の最中でもあると思うのですが、あのバンドの中における西田くんの役割は今どうなっていますか?

西田:佳穂BANDではもちろんギターも弾くし、最近はベースシックスをベースアンプとギターアンプで鳴らして、ベースラインを弾いたり、あとこの間のライブからサンプラーも使ってて、シンセも増えて、言ったら、ドラム以外全部チャレンジしてる感じです。もともとは全然そんな気なくて、何なら「お前ギタリストだろ?シンセで出すなよ」みたいなタイプだったんですよ。それこそトム・モレロ好きだし、「諦めんなよ」みたいな(笑)。でも、佳穂BANDではいつの間にかこうなってて、それは今バンドとして向いてる方向があって、やりたいことが具体的にあるから、その中で自分のやるべきことをただやりたいというか。

――その人の音楽に同化する上では、ギタリストとしてのこだわりもいい意味で捨てられるというか。

西田:いろいろな楽器を使ってる理由が「ギターへの諦め」じゃないから、何の抵抗もないんだと思います。ギターはギターでまだまだやりたいことがあるし、いろんな楽器を使うことで、思いつくことが増えたり、ギターにフィードバックもありますからね。

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