7年ぶり新作発表のsleepy.ab 成山剛が語る、北海道拠点にバンドを続ける理由と“ロック”に対する意識

sleepy.ab 成山剛インタビュー

「やっぱsleepy.abじゃなきゃダメだなとは思いますね」


――最近の音楽シーンでは、音数が少なくて、ロックバンドでもクリーントーンな音が多くなりましたが、その傾向はどう思いますか?

成山:他のバンドの音楽のことはあんまり考えてなかったかもしれないですね。もともと(自分たちが)主流の音楽ではないので。だから自分たちはそこまで意識はしてないところではありますけどね。でもsleepy.abも昔よりは音数は減ってますけどね。個人的な感覚ではもっとシンプルになってるというか。

――これで減っているのはすごい。いわゆる楽器的な音以外も鳴ってるので、印象としては音響派やマスロックに近いなと。

成山:うん。俺はやっぱりヘッドフォンで聴いた時に、景色が見えるとか風景が見えるとか、それを想起させる音が好きだし、そういうイメージを持って演奏していますね。

――怒濤という言葉がハマるサウンドスケープの曲が多く感じられました。それも最近成山さんが聴いている音楽との比較なのかな? と思うんですけど。

成山:歌について最近思っていたのは、昔の音源ではちょっとボーカルが遠目にあったりするものがありますよね。ディレイだったりリバーブだったりで。sleepy.abはそこが他のバンドより多いバンドだったと思うし、歌い方もそうだったんですけど、他のアーティストの楽曲と並べた時にボーカルがすごく引っ込んで聴こえるというか。まぁ、柔らかさというのもあると思うんですけど。でも今サブスクが主流になってきて比べると他が硬い音楽が多かったので、比べた時にただ自分たちの音が「弱い」と思われたら嫌だなと思ったんですね。例えば若い人が聴いて、「優しい」と思うのは全然いいんですけど、「弱い」と思われるのはイコール芯がないみたいで嫌じゃないですか。だから今回は、ボーカルは割とダイレクトにしたいなと思ったし、リバーブを減らした部分もあったので、芯が見えやすくなったかなっていう気はしますけどね。

――珍しく辛辣な歌詞もありますね、「ideology」とか。

成山:歌詞も音選びというか、語感で遊んだ部分もありますが、それはあんまり今までにないパターンだったんです。もともとストーリーとか、起承転結みたいなものを考えてしまうタイプではあるんでけど、今回の歌詞はそこまで考えずにいけたというか。なんとなくまず歌詞を書いて、ブラッシュアップしていくというのは新しいアプローチでしたね。

――優しく布団をかけてくれる感じではないです(笑)。もちろん良質なものではあるんだけど。

成山:ただ普遍的なものはずっと作り続けたいとは思っていて。やっぱりそこはソロ活動が大きかったかもしれないですね。ソロではその優しい部分、バンドでは強さや色気をアウトプットできる場所というように決まってきたというか、違う表現の出し方ができることが大きかったかもしれないですね。

――それはバンドでニューアルバムを作る大きな理由にもなりますね。

成山:そうですね。この7年間、ソロ活動もかなり行ってきて、そこから聴いてくれるようになった人もいるんですよね、sleepy.abを知らずに。で、久々にバンドのワンマンをやった時に、「あ、こんな感じなんですね」って、ちょっと引いてるみたいな。激しい部分もあるので、バンドの時は(笑)。

――激しい部分とちょっと謎な部分はバンドならではですもんね。ところで以前からエレクトロニックな部分はあったけれど、今回のアルバムでの音のレイヤーは他の生音と電子音を融合しているアーティストとも違う印象でした。

成山:初期の頃は、ヨーロッパの音楽、主にUKのRadioheadやOasisの影響を受けて1枚目、2枚目を出してた部分もあると思うんです。で、その時って結構自分たちがRadioheadフォロワー的な見方をされて、「ああ、それじゃちょっと嫌だな」と。オリジナリティを自分で求めたくて、3枚目のアルバム『palette』を作る前に初めて邦ロック、J-POPをたくさん聴いたんです。そこで初めて日本の音楽シーンとsleepy.abの整合性を考えて作品を作れたんですよね。

――邦ロックやJ-POPの何に気づいたんですか?

成山:それまで日本のロックってほんとに聴いてなかったので、フィッシュマンズとかもそこで初めて聴いたり、あと、サニーデイ・サービスも振り返ってじっくり聴きました。

――いわゆるメインストリームではなくて、新しい文脈のロックバンド?

成山:うん。実は、自分たちがロックバンドっていう意識が全くなかったんですね。それまでフェスも大体「ロックフェス」って名前に付いてるし、だからロックフェスなんて呼ばれることなんて絶対ないだろうと思ってた時に、『RISING SUN ROCK FESTIVAL』のお話がきて。それがその3枚目のアルバムの時だったんですけど、「いや、ロックじゃないでしょ……」と、思ってました。でもその年に『FUJI ROCK FESTIVAL』とかもいっぺんに出たんですね。その3枚目のアルバムを転機に。

――フェスでの受け止められ方によってバンドとしての意識は変化しましたか?

成山:うーん。自分たちがロックバンドとして見られている実感もあったし、「あ、これはロックなんだな」って初めてそこで感じましたね。CDを出すだけじゃなくて、ライブをすることに対して、自分たちの中だけじゃなくて外に発信していくことに対して「ロック」を意識する感じはすごくありましたね。

――その後も作品を重ねて来たわけですが。

成山:メジャーに行った時もまた変わっていきましたね。レーベルがポニーキャニオンだったんですけど、担当のディレクターはそれまでのsleepy.abが好きで、もう「好きにやってほしい」「北海道にもいてほしい、そのまま」と言ってくれて。それが嬉しくて一緒にやることになったんですけど、逆に俺がメジャーっていうものを意識しすぎたんですね。あと、スタッフさんがいっぱいいるってなった時に「ちゃんとしなきゃな」っていうふうになることも多くて。なんかそれまでは好きにやってたのに、急に考え出すみたいな(笑)。

――好きにやっていいって言われても、それだけ周りにスタッフがいたらその人たちの仕事に関わるって考えてしまいますね。

成山:そうですよね。それにスタンスもスピードもすごく早くて、一年に何枚作品を出さなきゃいけないというのがあるので、自分の中での曲のストックや書きたいものが追いつかない状況もあったり。なかなか大変でしたね。

――つくづく環境要因が大きいバンドですね。

成山:けど今振り返ると、必要なことだったのかなと思いますけどね。

――メジャーを離れてからのこの間は契約上のリリースしなければならない理由はないわけで。出したいから出すというスタンスに?

成山:7年空いてるんでね(笑)。さすがに……という気持ちももちろんあるし、このまま忘れられるのかなっていうのがありました。そこの限界の年だったんじゃないかな。

――結成当初と今では成山さんにとってバンドの存在は変わってきましたか?

成山:さっきも言ったように、バンドがあってこそのソロ活動という気持ちが明確にあるので、やっぱsleepy.abじゃなきゃダメだなとは思いますね。メンバーもそうだし、バンドって形がないと満足できないところがすごくありますよね。それはソロ活動で僕やバンドを知ってくれた方には失礼な発言になっちゃうかもしれないけど、基本sleepy.abがメインであって、それを繋げるためにソロがあるところは変わりないので。

――sleepy.abは札幌拠点でメンバーが住んでいる場所もバラバラですけど、北海道のバンドやアーティストは音楽性もスタンスが独特なのはなぜなんですかね。

成山:北海道って面白いのが、どこまでやっていいのかわかんない人が多くて。土地が広すぎることも関係しているのかもしれませんが、たとえばギターの人でも、他に比べる人がいないからとんでもなく上手い人とかがたまにいたりするんですよね。いい意味で勘違いできる場所ではあるかなと思いますね。東京にいたら身近でも「こんな人いるんだ、無理だわ」って諦めるかもしれないけど、そういうのはなかなかないですね。

――逆を言えば、どこでやめていいかわからないということにもなる?

成山:うん、そこはあんまり考えたことないですね。やめるとかやめないとか。売れるとか売れないとかが、そこまで大きくないからだと思いますけど、自分の中で(笑)。

――sleepy.abがもし東京で活動してたらどうなるんですかね。

成山:BPMが速くなっちゃうんですかね(笑)。でも10日間滞在するぐらいで足が速くなってたり、ちょっとクールな気分になってたり。すごく影響受けちゃうことは間違いないですね。

■リリース情報
sleepy.ab『fractal』
発売:2020年01月29日(水)
NEM RECORDS、CHAMELEON LABEL
価格:¥2,800(税込)

■ライブ情報
sleepy.ab「fractal」tour
2020年3月1日(日)大阪・梅田 Shangri-La
2020年3月15日(日)北海道・札幌 cube garden
2020年4月18日(土)東京・代官山UNIT

sleepy.ab オフィシャルサイト

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