ニガミ17才、Tempalay、踊ってばかりの国……現代のサイケデリックな音楽たちがもたらすもの

踊ってばかりの国『 私は月には行かないだろう』(通常盤)

 そして最後に、筆者がこの10年間の日本の音楽シーンにおいて最も重要だと思っているサイケデリックバンド、踊ってばかりの国が、新作『私は月には行かないだろう』をリリースした。このアルバムタイトルは、お金持ちが月に行きたがるこの時代においての、自分たちの態度の表明だろうか? だとしたら、とても地に足がついている。もともと音楽性の豊かさに定評があっただけでなく、デビュー期から作品を重ねる毎に歌と言葉の精度を増してきたバンドだが、「ghost」や「光の中に」のような素晴らしく「いい歌」を朗々と響かせていた前作に比べ、本作はより、聴き手に話しかけるように親密で、かつ奥深い歌が聴こえてくるアルバムだ。曲の展開やメロディの響きは細部まで研ぎ澄まされながらも、全体的なプロダクションは決して重たくならず、むしろ軽やかに1音1音が鳴っている。おかげで一層、サウンドの風通しがよくなり、言葉も軽やかに、よく通る。1曲目「バナナフィッシュ」の歌い出しはこうだ。〈地球に突き刺さるビルや/陸を覆う光の群れ/あなたはその中で今日も/爪を噛んでいますか?〉――この時代、この社会に生きる、ほかならぬ私やあなたに向けられた言葉。アルバムはその後も、「時代」という狂気と、その中で生きる私たちの営みを愛おしみ、また同時に悲しむような歌が紡がれていく。かつて「世界が見たい」と歌ったバンドは、今、とても明晰な目で世界を見ている。2020年必聴の傑作である。

踊ってばかりの国『光の中に』 Music Video(2019)
踊ってばかりの国『バナナフィッシュ』Music Video(2019)

■天野史彬(あまのふみあき)
1987年生まれのライター。東京都在住。雑誌編集を経て、2012年よりフリーランスでの活動を開始。音楽関係の記事を中心に多方面で執筆中。Twitter

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