King Gnu、『CEREMONY』で劇的進化を遂げた“ポピュラリティ” メロディのフックを軸に考察
King Gnuが1月15日に3rdアルバム『CEREMONY』をリリースした。「白日」のヒットを契機に大きな飛躍を遂げた2019年を『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)への初出場で華やかに締めくくった彼ら。これまでにない注目度の中で発表された渾身の1枚は、バンドの勢いをそのまま反映したような充実の内容となっている。
一聴して際立つのは、そのポップミュージックとしての強度だ。バンドによる録音作品の軸となるべき要素ーー作曲能力やアレンジ能力、演奏能力、サウンドメイク術などを着実かつ地道に向上させながら、なぜかポピュラリティという一側面がチート級の劇的進化を遂げている。いったい、彼らに何が起こっているのだろうか。
令和のスタンダード
まず、King Gnuのバンドとしての特徴を改めて見直してみよう。彼らはバンドでありながら音像が“バンドバンドしていない”ところがユニークなポイントで、デジタルサウンドやシンフォニックサウンドの併用にまったく躊躇がない極めて現代的なミクスチャー感覚の持ち主だ。もう少し細かいところでは、サウンドメイクの特徴的なクセとしてオクターブユニゾンの多用が挙げられるだろう。彼らの看板サウンドとも言える常田大希(Vo/Gt)と井口理(Vo/Key)によるオクターブユニゾンボーカルに顕著だが、それ以外にもさまざまなオクターブユニゾンが頻出する。
たとえば「飛行艇」のギターリフにはわかりやすくオクターバーが使われているし、「ユーモア」においては歌メロのユニゾンに加えてシンセでも同フレーズを重ねる念の入れよう。このような執拗なオクターブ感の演出はデジタル音楽における常套手段のひとつでもあり、オーソドックスなバンドサウンドだけでは表現しきれない世界観や今日性を醸し出すことに一役買っている。
加えて特徴的なのは、そのサウンドスタイルと対極をなすかのような楽曲構造だろう。Aメロ、Bメロ、サビといった展開を“明確に”持つ作りは伝統的なJ-POPの文脈にのっとったものであり、その要素である主旋律や和声があくまで歌メロにフォーカスした作りになっている点も、グローバルなトレンドとは明らかに逆行している。もちろんこれは完全に意図的なもので、日本の音楽市場における「歌メロを軽視した楽曲はまず聴いてすらもらえない」傾向がそうさせているに過ぎない。厳密に言えば世界のポップミュージックが歌メロを「軽視」しているというわけではないのだが、長い話になるのでここでは割愛する。
つまり、伝統的な邦楽ロックの構造を骨格として持ちながら、現代的かつ“洋楽的”なサウンドに身を包んでいるところが彼らの最大の特徴であり、その両面を違和感なく同居させる高度なスキルこそが彼らならではの強みであると言っていい。どちらかに偏重せず、当たり前のように両方を取りにいくスタイルは、彼らのみならず令和アーティストのスタンダードとなってきている。