『紅白』が新しく生まれ変わる日は近い? MISIA、AI美空ひばり、2020……“未来志向”の演出面から考える
ただその方向を突き詰めれば、『紅白』はひとつの大きな問題にぶつかるだろう。それは、歌合戦の根幹である「男女対抗」の枠組みをどうするかだ。
民放でも大型音楽特番が増えるなか、男女対抗の枠組みは『紅白』の独自性にもなっている。だが性別や性の多様性を尊重しようという大きな時代の変化のなかで、番組が始まった戦後すぐの頃は斬新だった男女対抗の枠組みも時代とずれてきている面があるだろう。音楽の多様化は、いまの時代を生きる人びとの多様性の反映でもある。
その意味で、今回初めてトリを務めたMISIAのステージは印象的なものだった。一昨年に続く圧巻のパフォーマンスだっただけでなく、歌合戦の最後を飾るトリの舞台にドラァグクイーンが登場し、レインボーフラッグが掲げられた光景は、『紅白』が未来に向けて大きな一歩を踏み出したように感じられた。『紅白』が新しく生まれ変わる日も、実はそれほど遠い未来ではないのかもしれない。
■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。