細野晴臣が語る、“これからの音楽”への視線「刺激的なだけで深さがないものは飽きちゃう」

細野晴臣、“これからの音楽”への視線

 2019年にデビュー50周年を迎えた細野晴臣。イベント『祝!細野晴臣 音楽活動50周年×恵比寿ガーデンプレイス25周年『細野さん みんな集まりました!』』(10月11、13、14、15日/東京・恵比寿ザ・ガーデンホール)、記念展『細野観光1969-2019』(六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー・スカイギャラリー)、ドキュメンタリー映画『NO SMOKING』の公開、そして東京国際フォーラム ホールAで行われた『細野晴臣 50周年記念特別公演』『イエローマジックショー3』など、記念碑的な活動が続いた昨年を経て、細野の関心はどこに向かっているのだろうか? 

 リアルサウンドでは、50周年関連のイベントを終えたばかりの細野にインタビュー。現在のモード、興味を引かれている音楽や映画、そして、今後の活動ビジョンなどについてじっくりと語ってもらった。(森朋之)

「いろんな人が聴いてくれてるんだな」と痛感した1年

ーー2019年は音楽活動50周年のアニバーサリーイヤー。展覧会、ドキュメンタリー映画、コンサートと様々なイベントがありましたが、細野さんは事あるごとに「ずっとやっていれば誰でも50年になりますから」「早く来年(2020年)にならないかな」とおっしゃってました。

細野晴臣(以下、細野):いまもそう思ってますけどね(笑)(このインタビューは2019年末に行われた)。まあ、何とか乗り切れたので良かったですけど。

ーー恵比寿ガーデンホールでのイベント、東京国際フォーラム公演の2日目(『イエローマジックショー3』)など、細野さんと縁のあるアーティストのみなさんも多数参加して。細野さんの音楽を介した多彩な繋がりが実感できました。

細野:そう、いろんな人が手伝ってくれましたからね。それはもう呆然とするくらいでしたよ。この何十年、淡々と一人でやっていたつもりでいたんだけど、時間の積み重ねというものがあって、それが自分にも返ってきたんだなと。「こんなことをしてくれてたんだ」と知らなかったこともたくさんあったんですよ。恵比寿のイベントの映画の日(「Day2 細野さんと観よう!」)に、槇原敬之くんやキョンキョン(小泉今日子)がビデオでコメントを送ってくれたりね。すごいなって他人事みたいに見てましたけど。

ーー自分のことではないみたい、と?

細野:本当にそうですよ。あまり自分のことに目を向けてなかったんだけど、「いろんな人が聴いてくれてるんだな」と痛感した1年でしたね。下手なことはできないなと、やっと気が付きました(笑)。特にソロの作品は、(リスナーの反応を)まったく気にしてなかったんですよ。誰かとコラボレーションしたり、ユニットを組んだり、あるいは発注を受けて曲を書いたときは気にするけど、ソロは全然。やりたいこともしょっちゅう変わるし、勝手にやってるだけというのかな。だからアルバムを出すたびに、怒られたり、リスナーが逃げたりするんです。『トロピカル・ダンディー』を出したときは、『HOSONO HOUSE』が好きな人が逃げちゃったし、『泰安洋行』を出したら、もっと先まで逃げちゃって(笑)。ずいぶん長い間、一人でやってるような気持ちだったけど、それもここ数年で変わってきましたね。

ーーストリーミングサービスなどによって、これまでの作品も手軽にアーカイブできますからね。細野さんの音楽は海外でも広く聴かれていますが、NY公演の手ごたえはいかがでしたか?

細野:東京からニューヨークに行くまでは、ずっと緊張してたんですよ。その前のロンドン、ブライトンのライブは気軽にやれたんだけど、「ニューヨークは厳しいだろうな」と思ってたんです。でも、実際に会場に行ってみたら“SOLD  OUT”と書いてあって、長い行列ができていて。ライブが始まったら東京や大阪と同じようにやれたし、喜んでもらえたので良かったなかと。

ーーこれまで通りに20世紀半ばのブギウギのカバーも演奏されていましたが、ニューヨークの若いオーディエンスもすごく盛り上がっていました。彼らにとって、今の細野さんの音楽は新鮮に聴こえるのかもしれないですね。

細野:それは自分ではわからないけどね。デヴェンドラ・バンハートというシンガーソングライターに会ったときにーー彼も僕の音楽をずっと聴いてくれてるんだけどーー「ブギのカバーなんてやってて、大丈夫かな?」と聞いてみたら、「これはパンクだ」と言われたんですよ。どういう感覚なのかはわからないけど、まあ、それぞれに捉え方があるんだろうし、拒絶はされてないみたいだなと。ニューヨークの公演も東京とほぼ同じレパートリーだったんだけど、あの時代の音楽の良さは彼らもよく知ってるし、すんなり伝わるんだなという印象でした。

ーー東京国際フォーラム ホールAの初日(2019年11月30日)、50周年記念特別公演も素晴らしかったです。セットリストはロンドンやニューヨークとほぼ同じでしたが、やはり「いまやりたいことを表現したい」という気持ちがあったんでしょうか?

細野:いや、何も考えてませんでした(笑)。2019年の活動の締めくくりという感じで、新曲もそんなにやらなかったしね。

ーー“〇周年コンサート”というと、キャリアを網羅した内容にするアーティストも多いですが、細野さんは全然違っていて。セレモニー的な演出もまったくなかったですね。

細野:なかったねえ(笑)。そういう大げさなことをやりたい気持ちもあるんだけど、いざはじめるといろんなことが気になって、(過去の曲も)全部作り変えたくなると思うんだよね。大変でしょ、それは。

ーー確かに。映画『NO SMOKING』のなかで“年季の入った音楽をやりたい”とコメントしていましたが、バンドメンバーの演奏もさらに向上していて。

細野:うん、やればやるほど良くなるね。いつも同じような曲をやってるけど、じつはずいぶん変わってきてるんですよ。上手いなって思うし、彼らの演奏力はすごいですよ。

ーー12月1日の『イエローマジックショー3』は、テレビ番組『細野晴臣 イエローマジックショー』を舞台で上演。高橋幸宏さん、坂本龍一さんをはじめ、宮沢りえさん、星野源さんなど豪華なゲスト陣も参加されました。コントが中心で、めちゃくちゃ楽しませていただきました。

細野:疲れちゃったけどね(笑)。最後にジョイマンのネタを一緒にやって、力を使い果たしちゃって。じつはアンコールをやろうと思ってたんだけど、「もうダメ」ってできなかったんだよ(笑)。

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