蒼山幸子、沙田瑞紀、佐藤千亜妃……新たな表現に向かう女性アーティストの現在地
5月27日に活動休止を発表したきのこ帝国。ソングライターである佐藤千亜妃は、11月13日にソロ名義での1stフルアルバム『PLANET』をリリース。2018年の1st EP『SickSickSickSick』は砂原良徳をプロデューサーに迎えたエレクトロニカの質感を取り入れた作品だったが、本作にはジャンルレスで自由度の高い楽曲が詰まっている。
オープニングから04 Limited Sazabysによる爽快なバンドサウンドと共に夢に向かう姿を鼓舞する「STAR」なのだから、前EPとの差異は明白だ。M2「FAKE/romance」は跳ねるビートとキュートな歌声がインパクト大なダンスポップ。M3「空から落ちる星のように」は、たおやかな歌声を響かせる弦の音色が美しいバラード。頭3曲だけでもバラエティに富んでおり、良質なプレイリストの側面を持つ作品だ。
アウトプットがソロに絞られたことで、バンドで培ってきた作風を内包することになったのも本作の魅力だ。陰鬱な感情を演奏に込めていた初期きのこ帝国の姿は「面」や「大キライ」に見え隠れしている。2015年の『猫とアレルギー』で導入したピアノ/ストリングスの装飾は、先述の「空から~」や後半を飾る「キスをする」にも繋がるものだ。2016年の『愛のゆくえ』辺りから顕著になった艶っぽい歌い回しの延長上に、管楽器をフィーチャーした「You Make Me Happy」「Spangle」で活きるソウルフルな歌声がある。『PLANET』はきのこ帝国の活動を経たからこそ成せた表現が散りばめられているのだ。
今回紹介した3人のソングライターは、これまでとは一味違う表情を持つ新曲をどんどん届けてくれている。そのどれもがバンドでの活動や表現があったからこそ選び取れた音楽であることは確かだ。次にどんなアプローチを仕掛けてくるか未知であり、多様な可能性を含んだ楽曲ばかりなのも興味深い。主導権を握り、伝えたい音楽を紡ぐそれぞれの現在地。その動向から2020年も目が離せない。
■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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