HYDEの『ANTI』が迎えた完成の時ーー“芸術的なカオス”生み出した熱狂のツアーファイナル

『HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL』レポ

 その後も彼は攻撃の手を緩めない。怒涛の攻勢の最後に放たれたのは「MIDNIGHT CELEBRATION Ⅱ」。原曲の面影が霞むまで威力を引き上げた重金属音に研ぎ澄ましたスクリームが絡みつき、砲弾さながらに客席へ打ち込まれていく。再びフロアには特大のサークルピットが発生。ヘッドバンギングの嵐とシンガロングで観客も砲撃に応戦していく。殴り合いの末に振り切ったテンションでステージ上のオブジェクトを破壊しながら彼はステージから姿を消した。

 再びステージに明かりが灯るとそこにはドラム缶が。メタル好きにはお馴染みとも言える「Duality」が始まると、客席フロアの後方からHYDEが登場。白煙を噴射しながら客席を練り歩いていく。ステージまで辿り着くとSlipknot顔負けの勢いで叫び倒していく。続く「AHEAD」では一体となったフロアから特大のクラップとシンガロングが響き、 「GLAMOROUS SKY」が投下されるとフロアにこの日一番のサークルピットが巻き起こった。「悔いを残すな! 食い尽くそう! 俺達ならできる!」という叫びに応えるべく、フロアは最後の一滴まで絞り出していく。

 轟音が鳴り止み、全てを出し切ったフロア。最後の曲を前に言葉を紡ごうとする彼に向けて、観客は一斉に光を灯した。ライヴの照明とは違う、温もりに満ちた数多の光。それを見て彼は「これはね、ただの光じゃないんですよ。全部に意味がある。僕の大事な人の光です。よき理解者のね」と言い、最後の曲「ORDINARY WORLD」を放った。2年前のVAMPS活動休止から今日までの全てを、温かな歌声と光が包み込んでいく。ステージとフロアに涙が零れ、そして『ANTI』は完成した。

 会場を後にする理解者達の手には、新たな“招待状”が握られている。この完成した“招待状”は、一体どんな世界に人々を誘うのだろうか。悪魔が耳元で囁いている。「『ANTI』はね、“招待状”なんですよ」と。

(写真=岡田貴之、田中和子)

■タンタンメン
自身の活動から得た経験を元に音楽記事を執筆する元バンドマンのフリーライター
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