川谷絵音がジェニーハイで描く“女性の清々しさ”とは? 『ジェニーハイストーリー』の歌詞を分析

 7曲目の「グータラ節」は、〈帰ったら干物に乾いてぬくぬくしよ〉と、いわゆる干物女が主人公。「節」とつくタイトルと呼応するように〈味噌汁作ってよ江戸っ子諸君〉と今度は平安ではなく江戸っ子が登場。〈私は甘える生き物よ/一緒にグータラしないでね〉と甘えたかと思いきや、〈今日は愛の方が欲しいから/たまには一緒にグータラしよ〉と逆亭主関白ぶりを発揮。そして〈現実かけ離れちゃった/でもしょうがないわ〉とあっけらかん。あれ、こんな女子、他の曲でもいたような。そう「不便な可愛げ」「ダイエッター典子」の主人公はまさに“グータラ女子”。〈寝ても寝ても午前中なら良いのに〉〈食べても食べても太らなきゃ良いのに〉と上記二曲の主人公を彷彿とさせるフレーズが「グータラ節」に再登場するのも川谷歌詞の小粋さ。〈願望だけは一人前 せめてグータラ節は流行って〉と最後まで他力本願なところも3曲の共通項だ。

ジェニーハイ『グータラ節』

 ここまで見てきたように、『ジェニーハイストーリー』に登場する女性たちはみな清々しい。この清々しさの根源は、彼女たちの「自己肯定感」だと思う。8曲目の「愛しのジェニー」の〈自画自賛で何が悪い 自暴自棄よりずっとマシ〉というフレーズがまさにぴったりだ。「シャミナミ」や「プリマドンナ」の主人公の「強がり」的自画自賛も良いし、グータラ女子3曲の怠惰な自画自賛も共感できて楽しい。

 indigo la Endで描かれる、恋する女性像に代表されるように、川谷は女性目線の曲も多く手がけてきた欲張りなグータラ女子を描くことが出来たのは、ジェニーハイというほどよい脱力感のあるバンドのおかげだろう。実際前回の1stEP『ジェニーハイ』収録の「ランデブーに逃避行」でも〈歴史に残らなきゃなのに 昼まで寝ちゃった〉と布団の中で逃避行する女性を描いた。結成当初は、メンバーのキャラが濃いことから「ジェニーハイのテーマ」のようにキャラに注目した曲が並ぶかと思ったが、本作で「ジェニーハイ=グータラ女子」というもう一つの型を確立したように思う。最後に、今回は歌詞に注目したが、川谷の凄いところは、メロディが時に切なく、清々しさの裏に哀愁を感じる点にある。このギャップがジェニーハイに「中毒性」を感じる理由の一つだと思う。ぜひ本作で体感してみてほしい。

■深海アオミ
現役医学生・ライター。文系学部卒。一般企業勤務後、医学部医学科に入学。勉強の傍ら、医学からエンタメまで、幅広く執筆中。音楽・ドラマ・お笑いが日々の癒し。医療で身体を、エンタメで心を癒すお手伝いがしたい。Twitter

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