史上最年少でグラミー主要4部門ノミネートのビリー・アイリッシュ、1年間の急激な変化の中でもブレない芯

ビリー・アイリッシュ、「1年前の私」と同じインタビューに答える

 いかにビリーが急激な変化を経験しているかは、たとえばGQ JAPANが公開しているこんな動画でうかがい知ることができる。(ビリー・アイリッシュ、「1年前の私」と同じインタビューに答える)SNSのフォロワー数やライブの集客といった具体的な数字や、すっかり華々しくなった交友関係は、この1年でビリーが築いたポップアイコンとしてのポジションを反映している。かえってビリーの芯の変わらなさに驚かされるほどだ。それでもなお、不安から逃れることは難しい。なぜビリーが未だ自分を保っていられているか、その答えのひとつが「everything i wanted」にこめられている。

 悪夢から目覚めたコーラスは、バースに出てくる「あなた」、つまりフィニアスの言葉を直接話法で伝えるものになっている。ビリーの気持ちを尊重して踏み込みすぎることはなく、しかし率直に自分の思いーービリーを支え、勇気づけたいーーを語る言葉には、きょうだいとして、またコラボレーターとして互いにリスペクトを捧げる関係性が浮き彫りになっている。その部分のバッキングボーカルをフィニアスが担う構成が、歌詞で描かれるふたりの信頼関係にリアリティを与えている。

 リスナーにとってもっとも痛切に響くのはアウトロだろう。「もし最初からぜんぶわかってたなら、自分はまた同じことをするだろうか。もしみんな自分の言うことが私の頭に直で入ってくるんだってわかってたら、かわりになんて言うだろうか」。心無い発言であろうと、あるいはたとえ賛辞のつもりであろうと、「言葉が届いてしまう」ことがもつ残酷さを覚えずにはいられない。だからこそ、ビリーにひとりの人間として敬意を払い、自分の思いをはっきり伝えるフィニアスの言葉がこれほど響くのだ。

 「everything i wanted」は、2018年から2019年にかけてビリーが経験したあらゆることにけりをつける特別な1曲だ。サウンドの変化はビリーの次を示すと言うよりもこの曲の特別さをあらわしているのかもしれない。むしろ、変わることのないアティチュードを改めてかたちにしたと言ったほうがいいだろう。2020年を目前に、ビリー・アイリッシュは次の一歩を踏み出そうとしている。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

■リリース情報
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