寺岡呼人、『NO GUARD』で示したファイティングポーズ シンガーソングライターとしての現在地を記した作品に

寺岡呼人、シンガーソングライターとしての現在地

 寺岡呼人がニューアルバム『NO GUARD』を11月27日にリリースする。JUN SKY WALKER(S)、カーリングシトーンズの活動、音楽プロデューサーとしても幅広く活躍している寺岡だが、通算14作目のアルバムとなる本作は、現在の彼自身の心情、この先の人生に対する思いなどが強く反映された、シンガーソングライターとしての現在地がしっかりと示された作品となった。

 昨年から今年にかけて、寺岡は驚くほど精力的な活動を続けてきた。2018年2月には、日本武道館、大阪城ホールでバースデーライブ『50歳/50祭』を開催(さだまさし、桜井和寿(Mr.Children)、Kが両公演、ゆずは日本武道館公演のみ出演)。さらにJUN SKY WALKER(S)の30周年記念ツアーを行い、奥田民生、斉藤和義、浜崎貴司、YO-KING、トータス松本とともにカーリングシトーンズとしての活動もスタートさせた。また、プロデューサーとして宇宙まお、湘南乃風、浜端ヨウヘイ、山本彩、グッドモーニングアメリカの楽曲に関わるなど、まさに多忙を極めている(ように見える)。今回の『NO GUARD』は前作『LOVE=UNLIMITED』以来1年半ぶりのアルバムだが、このタイトなスケジュールのなかでの制作は、ソロ作品に対する強いモチベーションがなければ実現しなかっただろう。

 アルバム『NO GUARD』の核になっているのは、もちろん歌詞だ。音楽プロデューサーとしても“詞先”のスタイルを取っていることで知られる寺岡は、まず、“何を歌うべきか”を模索するところから制作をスタートさせたはず。単に自分自身のことを赤裸々に歌うのではなく、実際の体験や感情をもとにしながら、幅広い層のリスナーに訴求できるポップス(大衆音楽)に導く。このプロデュース能力こそが寺岡呼人の真骨頂であり、それは当然、今回のソロアルバムにも共通している。

 アルバム『NO GUARD』の精神性をもっとも端的に示す、つまり、現在の寺岡のモードをいちばん強く反映しているのは、タイトルトラック「NO GUARD」だろう。この歌のなかで寺岡は、〈殴れるもんなら 殴ってこい〉〈残りの人生駆け引きなしさ〉という攻撃的(挑発的)な言葉を連打している。一見、10代、20代に似合いそうな歌詞ではあるが、50代になって寺岡が真っ直ぐに歌うことによって、この言葉はさらに奥行きを増している。筆者も寺岡と同世代なので実感としてよくわかるが、この年齢は本当に微妙だ。仕事でもプライベートでも、ある程度の道筋が見えてしまい、“この感じで最後までいくしかない”という限界が見えてくるからだ。そのことを踏まえたうえで寺岡は、〈画策したって仕方ない/媚を売っても仕方ない〉と胸を張り、前進を続けようと鼓舞している。エッジの効いたギターフレーズ、濃密なグルーヴをたたえたバンドサウンドを含め、“ミドルエイジに向けたロックの在り方”を力強く示唆した楽曲と言えるだろう。

 「ばあばのおまじない」では、幼少期の頃の祖母との思い出をフォーキーな旋律ともに叙情的に綴り、「許せないリスト」では、ヘビィなバンドサウンドに乗せて、〈大人げないと言われても、絶対に許せないヤツがいる〉と怒りに任せて歌い上げる。どちらもオーソドックスなテーマだが、彼自身が体験したであろう具体的なエピソードを必要最小限に抑えることで、幅広い層のリスナーが「わかる!」と思える楽曲に結びつけているのだ。浜端ヨウヘイとの対談インタビュー(浜端ヨウヘイ×寺岡呼人が語り合う、“詞先”の醍醐味「無数のエピソードが時代になっていく」)で寺岡は「これからの時代に必要なのは、ファンタジーとリアルの使い分けだと思ってるんですよ」とコメントしていたが、この絶妙なバランスもまた彼の楽曲制作のキモであり、このアルバムを読み解くヒントになるはずだ。

 寺岡自身のルーツミュージックの影響がもっとも感じられるのは、「飛行機雲」だ。この曲名から連想されるのはもちろん、荒井由実の「ひこうき雲」。ユーミンの「ひこうき雲」が10代の少女の繊細な感情を映し出した曲だとすれば、寺岡の「飛行機雲」は人生の後半に差し掛かった50代の男の歌だ。いつか別れるときが来るとわかっているし、その実感も少しずつ強まっている。それでもなお、“人は一人では生きていけない”という思いを抱えながら、飛行機雲のように大空を駆け抜けていきたい……そんな思いをノスタルジックな音像とともに描き出している。日本を代表する名ギタリスト鈴木茂が参加、豊かな響きをたたえたスライドギターを聴かせているのも、この曲のポイント。鈴木がユーミンの「ひこうき雲」をプロデュースしたキャラメル・ママのメンバーだったことを踏まえ、サウンドメイクそのものをオマージュしているというわけだ。

 2020年4月から5月にかけて、アルバム『NO GUARD』を携えた全国ツアー『寺岡呼人ツアー2020 〜NO GUARD〜』を開催。年齢とキャリアを積み重ねがら、自然な変化を続けている寺岡は、本作『NO GUARD』と全国ツアーによって、さらに豊かさを増したポップスを提示することなるはず。何よりも、“まだまだリングに上がり続けてやる”とファイティングポーズを示したことが、このアルバムの最大の成果だったと思う。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■リリース情報
『NO GUARD』
発売:2019年11月27日(水)
価格:¥3,300(税抜)

<収録楽曲>
01 NO GUARD
02 ウォッチメン〜一億総監視員〜
03 歓びのうた
04 飛行機雲
05 ばあばのおまじない
06 シンガーソングライター
07 華麗なる変身
08 許せないリスト
09 幸せのレシピ
10 炎
11 うたかた

カーリングシトーンズ
「氷上のならず者」
発売:2019年11月27日(水)
・通常盤(CD)
価格:¥3,000(税抜)
・初回限定盤紙/ジャケット仕様(CD+DVD)
価格:¥4,500(税抜)
・収録楽曲
CD
01.スベり知らずシラズ
02.何しとん?
03.俺たちのトラベリン
04.わかってさえいれば
05.マホーのペン
06.キャラバン
07.タイムテーブル
08.B地区
09.出会いたい
10.Oh! Shirry
11.夢見心地あとの祭り
12.涙はふかない

DVD(総再生時間:50分)
01. 2018年カーリングシトーンズ デビューライブ記者会見 映像
02. オリジナル映像『カーリング場にシトーンズがやって来るワァ!ワァ!ワァ!』
03. Music Video『涙はふかない』
04. 特別メイキング映像

■ライブ情報
『寺岡呼人ツアー2020 〜NO GUARD〜』
4月11日(土) 長野 ネオンホール
4月12日(日) 金沢 もっきりや
4月18日(土) 倉敷 REDBOX
4月19日(日) 福岡 rooms
4月21日(火) 高知 X-pt.【クロスポイント】
4月22日(水) 淡路島 マトヤ楽器 的矢ミュージックスタジオ 
4月24日(金) 名古屋 ell.SIZE
4月26日(日) 渋谷 Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE 
4月28日(火) 山形 FRANK LLOYD WRIGHT
4月29日(水・祝) 仙台 SENDAI KOFFEE
5月2日(土) 心斎橋 JANUS
5月16日(土) 札幌 円山夜想
5月23日(土) 横浜 Thumbs Up
※各公演のゲスト、編成はオフィシャルサイトにて

オフィシャルサイト

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