乃木坂46、“個の強さ”で体現したアンダーの歴史 岩本蓮加座長の『アンダーライブ』を振り返る

 後半、それぞれストリングスバージョン、アコースティックアレンジで披露された「君は僕と会わない方がよかったのかな」「初恋の人を今でも」などを挟み、「新しい世界」からライブは最終盤に入ってゆく。アンダーライブがこうした大会場でドラマティックなクライマックスを構築できることはすでに過去のいくつもの公演で実証済みだが、初のアンダーセンターを背負う岩本を中心に今回も同様の盛り上がりを体現し、本編ラストの「~Do my best~じゃ意味はない」までを披露した。

 乃木坂46のアンダーライブは、その時々のアンダーメンバーたちの矜持を映し出す場として存在してきた。本編だけでなくアンコールも「乃木坂の詩」以外はすべてアンダー楽曲で構成したこの公演のセットリストをみれば、今回もそうしたプライドを誇るようなものにも思える。

 けれども今回のアンダーライブはメンバー構成にせよ楽曲のアレンジや披露の仕方にせよ、より余裕を持ってアンダー作品のアーカイブを現在形で示しているような趣がある。アンダーの矜持を示すこと以上に、ライブ全体を通しての作品としてのスケールや懐の深さこそがみてとれた。

 それは、ひとつには3期メンバーそれぞれまでを含めて、各人が中心を担える強い個を手にしつつあるためだ。今回、ライブ全体のセンターである岩本はもちろん、フロントやセンターが楽曲によってさまざまに分担されてゆくなかで見えたのは、いまやアンダー楽曲・アンダーライブのみによって、乃木坂46という組織がもつ表現の幅広さをその都度提示できるということだ。

 もちろん、これはアンダーライブが単に新しくなってゆくだけのことではない。たとえば、渡辺がセンターを担う「風船は生きている」が披露されれば、その背後には2017年の東京体育館でのアンダーライブの軌跡が立ち上がってくる。そうした歴史の重なりは、アンダーライブが開催されるたびに鮮明になる。他方で、現在を紡いでゆく彼女たちが、かつてとは異なる強さ、異なるカラーを示し続けることもグループにとっては不可欠である。参加メンバーそれぞれが楽曲の中心を背負いながら、いまや巨大な人気コンテンツとなったアンダーライブを成立させている。まだ見ぬ未来の歴史を描き続けるためにも、アンダーメンバーそれぞれが今公演のような強い個であることは重要である。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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