(サンディ)アレックス・G、デヴェンドラ・バンハート…個性豊かなインディーシーンSSW新譜5選
Black Marble『Bigger Than Life』
ギターやピアノの代わりに、シンセを操って歌を紡ぐクリス・スチュワートのソロユニット。活動拠点をブルックリンからLAに移して制作された新作は、環境の変化に刺激を受けたアルバム。引っ越しの長旅で愛車が動かなくなり、バスでスタジオで通っているうちに、LAの街並みに魅せられたことが曲作りに反映されているらしい。今回もいつも通りアナログ機材のみを使用して、ひとりだけで制作。ヴィンテージシンセの音色とビートが生み出す80年代シンセポップ風サウンドは。どこかノスタルジックで温かい。その箱庭的シンセポップはThe Magnetic Fieldsにも通じるところもあるが、そこにUKロック的な哀愁を帯びたメロディーと繊細な歌声が加わると、ベッドルーム産New Orderといった趣も。
Mike Patton & Jean-Claude Vannier『Corpse Flower』
元Faith No Moreのボーカルで、数々のプロジェクトで奇才ぶりを発揮してきたマイク・パットン。そんな彼をシンガーソングライターとして紹介するのは強引に思われるかもしれないが、本作はこれまでの作品と趣が少し違う。本作でパットンがパートナーに選んだのは、70年代にセルジュ・ゲンスブールの作品を手掛けたアレンジャー/作曲家のジャン=クロード・ヴァニエ。パットンとヴァニエは、2011年にハリウッドで行われたゲンスブールの回顧展で知り合って意気投合。8年かけてアルバムを制作した。ベックの良きパートナー、スモーキー・ホーメル(ギター)や、70年代のアメリカ西海岸シーンを支えたベテランセッションドラマー、ジェイムズ・ギャドソン、フレンチプログレの大物、Magmaのベルナール・パガノッティ(ベース)など腕利きミュージシャンがサポート。ストリングスやコーラスを交えて刻々と表情を変えるシネマティックなサウンドに、ヨーロッパ的退廃美が漂う。そんななか、パットンは得意の奇声は控え目に、じっくりと渋い歌声を聴かせる。イギー・ポップの新作『Free』にも通じるアバンギャルドなダンディズムが味わえる本作は、パントンのシンガーソングライターとしての魅力を再発見させてくれる。
■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。