水樹奈々、声優アーティストのトップランナーたる所以ーー20年の歴史感じる過去作から辿る

“絶唱”を引き出す3つの要素

水樹奈々『METANOIA』

 歌詞は、シングル表題曲を中心に水樹自身が手がけ、アニメの物語との親和性の高さに毎回驚かされる。現在第5期『戦姫絶唱シンフォギアXV』が放送中のアニメ『シンフォギア』シリーズでは、水樹は風鳴翼役で出演すると同時にOP主題歌を毎作担当。歌詞にはキャラクター名や作品に絡めた内容が自然に織り込まれているほか、「歌詞の漢字を別の読み方で歌う”というお得意とする手法も満載され、歌詞カードを開くことでリスナーに新たな発見を与えてくれる。自分自身を作品に投影し、作品とじっくり向き合いながら、しかしその先にはしっかりとリスナーの存在を見据えていることが分かる。

 このアニメ『シンフォギア』シリーズのナンバーは、速さ、熱さ、激しさ、難易度の高さから、まさしく絶唱であるとファンの間で話題だ。サウンドもそれに比例し、ハードロックサウンドをベースにデジタルと多重コーラスがミックスされた「Synchrogazer」に始まり、「Exterminate」ではそこにオペラやストリングスが加わって、「TESTAMENT」ではハイスピードのバンドサウンドと交響管弦楽団のスケール感が融合。最新シングル曲の「METANOIA」ではメタルとデジタルがミックスされ、水樹史上もっとも高いキーのハイGを使ったメロディを歌いこなす。デビュー20年目であっても、トラックの進化は止まることを知らない。

 これらの楽曲を生み出しているのが、当時はまだ新進気鋭だった上松範康らElements Gardenのメンバーだ。初期は矢吹俊郎や本間昭光を中心にJ-POP調が多かったが、「ETERNAL BLAZE」以降は多くの作編曲をElements Gardenが手がけ、バンドとストリングスやシンセが融合した、現在の水樹サウンドを確立した。またチェリーボーイズと名付けられたサポートメンバーには、伝説的なロックバンド=FENCE OF DEFENSEの北島健二(Gt)を始めとした、重鎮級のベテランミュージシャンが名前を連ねる。水樹の歌唱力の高さを最大限まで引き出すには、並大抵のトラックやミュージシャンでは務まらないということだ。

 最後に付け加えておきたいのが、水樹奈々のパフォーマーとしてのポテンシャルの高さだ。ライブの見せ場である3Dフライングでは、微動だにせず正姿勢を保ちながら、声をまったくブレさせることなく聴かせるから驚く。3時間にも及ぶライブで会場を縦横無尽に走り回るにも関わらず、息を切らせている姿や水を飲んでいる姿は一度も観たことがない。歌うための体力とパフォーマンスするための筋力を、20年維持し続けているはまさしく努力のたまものだ。

 鍛え抜かれた肉体を資本にした圧倒的な歌唱力、心血を注いだ歌詞、それを支える楽曲と演奏。サブスク解禁を機に、様々な角度から水樹ナンバーを検証するのも面白い。きっとどの曲も実に魅力的で、その根底には、歌とアニメ作品やファンへの想いと愛を感じることができるだろう。

■榑林史章
「THE BEST☆HIT」の編集を経て音楽ライターに。オールジャンルに対応し、これまでにインタビューした本数は、延べ4,000本以上。日本工学院専門学校ミュージックカレッジで講師も務めている。

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