石井恵梨子のチャート一刀両断!
嵐、ベストアルバムが140万枚突破 安室奈美恵『Finally』にも共通する作品のかたち
参考:2019年7月15日付の週間CDアルバムランキング(2019年7月1日~2019年7月7日)
2017年最後の週、このチャート記事(安室奈美恵は“200万枚を売り上げた最後のアーティスト”となるか? 2017年最終週チャート分析)で安室奈美恵『Finally』を取り上げました。当時180万枚に届きそうだったセールスに触れ、私はこのように文章を締めています。
“安室奈美恵は「200万枚を売り上げた最後のアーティスト」と呼ばれるのかもしれません”。
“最後のベスト盤。やっぱり配信じゃ無理。CDをこの手に持っておきたい。そんなふうに思わせるアーティストは、この先、もう出てこないでしょう”。
実際に『Finally』は年をまたいで売れ続け、結果的に200万枚を突破。2018年度のオリコン年間ランキングでも1位というモンスター作品になりました。ただ、これだけCDを売るアーティストが「最後」で、「もう出てこない」のかといえば、そうでもなかったようで。今、まさに好敵手が現れました。
嵐のベストアルバム『5×20 All the BEST!! 1999-2019』が売れに売れています。先週、初登場1位で1,304,251枚、今週は2位で104,828枚。たった2週で140万枚を突破する脅威のセールス力です。オリコンによると、男性アーティストでアルバム初週ミリオンは2003年のCHEMISTRY以来、16年6カ月ぶり。また初週の売上枚数も安室奈美恵『Finally』(111.3万枚)を上回るもので、これは2010年代を通しての最高記録となるそうです。
ちなみに、10万枚も売れているのに今週2位なのはなぜなのか。僅差ではありますが、すとぷりの1stフルアルバム『すとろべりーらぶっ!』が嵐をほんの少し上回るセールスを見せたからです。彼らは、歌ってみた、ゲーム実況、ツイキャスなど、動画投稿サイトや生放送で活躍中のエンタメユニット。動画投稿が主戦場とは時代だなぁと感心するばかりですが、今後こういうユニットは当たり前に増えていくのでしょう。平成のテレビカルチャーが一気に遠くなっていく感覚に襲われます。
嵐のスタートは1999年。デビューシングル曲「A・RA・SHI」にラップパートがあるのも当時のジャニーズとしてはかなり斬新で、このグループには“新時代を担う”期待が寄せられていることを予見させました。そして、実際に5人は期待以上の飛躍を見せてくれた。すでにバラエティ/マルチタレント路線を開拓し、平成を代表するアイドルグループとなっていたSMAPの背中を追いかけるように、どんどん大人の色気を身に着け、素晴らしい役者として、また頼れる司会者やキャスターとして成長していく。その様子を私たちは常にテレビ画面で確認してきたのです。もちろんコンサートツアーは常に大盛況でしたが、チケット争奪戦も毎度凄まじかったですよね。現場に行けないファンの多くは、テレビで嵐のメンバーを見かけては、いつでも仲の良さそうな5人の様子に勇気づけられていたのだと思います。
自らの活動休止の時期を発表し、そのうえでキャリアを総括するベストを出す。ファンは今までの歴史を反芻しつつ、ありがとうの気持ちを込めてCDパッケージを購入する。この流れは『Finally』とほぼ同じものです。アーティスト側には終焉の日に向かって完全燃焼する美意識があり、ファン側にも理解と納得と感謝がある。みだりに戸惑わせない、悲しませない活動の納め方を、この2作品が教えてくれますね。