作詞家zopp「ヒット曲のテクニカル分析」第22回
作詞家 zoppに聞く、理想的な“雨ソング”の特徴 「情景と主人公の心情をリンクさせる」
「(雨ソングは)まだまだたくさんの可能性を含んだコンテンツ」
ーーそのほかにも印象に残っている雨ソングはありますか?
zopp:竹内まりやさんが作詞した嵐の「復活LOVE」ですね。この曲は〈横なぐりの雨〉から始まり〈この部屋を飛び出した 君は〉と続く。「横なぐりの雨」というワードは台風のような荒れ模様を想像すると思うんです。そんななかで部屋を飛び出すなんて、“君”はよほど切羽詰まってますよね。たったワンフレーズで、登場人物たちの様子を鮮明に描ききっていて素晴らしいです。
ーーなるほど。わずかなワードで登場人物の心情まで伝わってくるのは興味深いですね。それに冒頭に〈横なぐりの雨〉があることで、楽曲全体に雨風の強い情景が印象づけられますね。
zopp:そうなんですよね。Mr.Childrenの「雨のち晴れ」も興味深い雨の使い方をしています。この曲では、主人公の心情を表す比喩表現として“雨”や“晴れ”を用いています。タイトルは「雨のち晴れ」ですが、歌詞の中では風景がほとんど描かれていないのがおもしろい。あと福山雅治さんの「Squall」は、「スコール」をひと夏の恋に例えていていい歌詞ですよね。スコールって短い間にたくさん雨が降るじゃないですか。ドラマティックな恋の表現として比喩しています。また、この曲も“雨”というワードがでるのは、冒頭の〈さっきまでの通り雨〉のみですが、聴き手に雨が上がったばかりの情景を想像させますよね。夏や梅雨、秋冬など季節によっても雨のイメージは変わると思います。
ーー雨には様々な表現方法があるんですね。他に天候をモチーフにした歌詞はどんなものがあるのでしょう。
zopp:雨以上にオールマイティなのが風だと思います。前に進むための追い風、抵抗する向かい風、あとは言い切りたくない時に「答えは風が知っている」という使い方をしたり。風は雨と違って明確な終わりがなくて、曖昧なことのたとえとしても使われることが多いかもしれません。この他に太陽や雪はポジティブなイメージ。雲は地上と空を区切る境界線で、もうすぐ雨が降るなど何かのヒントになるアイテムとして使われるように思います。また、流れる雲などは自由の象徴という印象ですね。
ーーこれまで、雨を用いた楽曲はたくさん発表されていますが、今後はどのような雨ソングが生まれると思いますか?
zopp:数年前から「ゲリラ豪雨」という新しい言葉がでてきています。先ほども紹介した「Squall」の〈通り雨〉や、「復活LOVE」の〈横なぐりの雨〉など、雨にも様々な種類があるんですよね。だから色分けがしやすくて何通りものパターンで物語を描くことができます。そういう意味では、まだまだたくさんの可能性を含んだコンテンツだと感じますね。
(取材=北村奈都樹・村上夏菜/構成=北村奈都樹・平沢花彩)
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