『vivid』インタビュー
kiki vivi lily「思い描いていたサウンドを作ることができた」、最新アルバム『vivid』を語る
ポップス〜ヒップホップのフィールドを自由に横断するシンガーソングライター、kiki vivi lily(キキ・ビビ・リリィ)。日本のシーンにおいて特異な存在感を放つ彼女が、ルーツ的なセンスと“いま”を感じさせるアレンジや演奏が折り重なったニューアルバム『vivid』 を、WONKらを擁するレーベル<EPISTROPH>から6月26日にリリースした。本作は、耳に優しく心の弾むサウンドで溢れていて、2019年のシーンを占う大傑作アルバムが完成したと言えるだろう。レコーディングにはWONKメンバーや安藤康平/MELRAW、Sweet William、さらに冨田恵一らが参加。カラフルながらもディープで、ブラックミュージックやソウルのフレーバーを感じられるキキビビ流ポップミュージックが詰まった全11曲が収録されている。軽やかにジャンルを越えていく謎めいた彼女に、話を聞いてみた。(ふくりゅう:音楽コンシェルジュ)
どこを取っても1曲1曲が際立っている作品集を志した
――びっくりしてしまうぐらいいいアルバムで、日常に溶け込むようなビートセンス、何度も聴きたくなるメロディやフロウの中毒性にハマりました。
kiki vivi lily:嬉しいです。作品を出すのが約3年ぶりで、初のフルアルバムなんです。ずっと形にしたかった曲たちなので、達成感がありました。自分の中で思い描いていたような音作りがきちんと出来ましたね。
――研ぎ澄まされたコーラスワークも隠し味として聴きどころだと思うのですが、もともと思い描いていたサウンド感とは?
kiki vivi lily:コーラスワークは近年こだわっている部分でもあるんですけど、放っておいたらどんどん(音を)重ねてしまうので、今回は少し抑えめにしてます。メロディを作っていく段階でコーラスも一緒に組み立てていくので、立体的なサウンドを作りたいなと思っていました。
――ヒップホップ的なビート感を取り入れつつ、極力シンプルになるようにサウンドを削ぎ落としていっている部分にセンスを感じました。
kiki vivi lily:この2年ぐらい、客演などでヒップホップシーンのアーティストと関わることが多くて、ビートの音楽で歌うことが多くなった影響が大きいかもしれないです。それで、削ぎ落としたサウンドの良さにも気づいたし、自分の作品にも反映させたいと思っていました。
――アルバムタイトル『vivid』は、まさにkikiさんの名前(vivi)も入り込みつつカラフルさも表現されていますが、今回制作を進める上でコンセプトやキーワードになったものはありましたか?
kiki vivi lily:テーマというか、自分の信念として“良質な楽曲がたくさん入っているアルバム”を作りたかったんです。ひとつひとつの質の高さにこだわっていて、どこを取っても1曲1曲が際立っている作品集を志しました。
――サウンドを共に作り上げたレーベルメイトであるWONKのメンバーはkikiさんにとってどんな存在ですか?
kiki vivi lily:しばらく作品を出さなかったのは、自分が表現したいものを誰とやるか、実際どうやったら出来るかをずっと考えていたからなんです。やっと、この人たちとだったら思い描いていたサウンドを作ることができると思ったのがWONKでした。
――そのWONKも所属するレーベル<EPISTROPH>からリリースするようになったきっかけは?
kiki vivi lily:私が所属しているPitch Odd Mansion(数々のヒップホップアーティストのMVを手がける國枝真太朗が主宰するアーティスト/クリエイター集団)にいる唾奇やSweet WilliamがWONKと交流があったんです。あと大きなきっかけになったのは、私の地元が福岡なんですけど、WONKリーダーの(荒田)洸君が福岡で行ったライブに来てくれて「うちのレーベルで出しませんか?」って話してくれたことです。
――なるほど。あと、気になるところだと記号的なアーティストネーム“kiki vivi lily”にはどんな意味が?
kiki vivi lily:以前は本名で活動していたんですが、名前って意外と大事だなと途中で気がついて。本名だとイメージの想像が固定されてしまうんですよね。どんなジャンルにも挑戦できて、どんなお客さんにも聴いてもらえるような掴み所のない名前にしたくて。バンドなのかソロなのかもわからないような名前にしたいと思いました。
――たしかに、先入観なしで聴けますよね。キュートでドープな「カフェイン中毒」という曲のセンスなど、世界観の広がりでいうとPitch Odd Mansionへ所属されたことも大きく影響していそうですよね。
kiki vivi lily:映像ディレクターやラッパー、ビートメーカー、ダンサーもいるんですよ。ほぼほぼメンバーは同年代ですし、自分の表現したいイメージがあれば、Pitch Odd Mansionの中で完結できるんです。「カフェイン中毒」は、Sweet Williamにアレンジを相談したら、これだ! というビートをバッチリと作ってくれて、通じ合っている感覚でした。一緒にツアーもやりましたし、そういった環境が信頼感やっぱり大きいですね。お互い、どんなものが好きなのかもわかっているし。
――刺激を受ける存在ということですよね。YouTubeには「80denier」がアップされていましたが、これはセルフカバーだそうですね。kikiさんにとって大事な曲なんですか?
kiki vivi lily:「80denier」と「カフェイン中毒」は、自分の中でもお気に入りの曲で、今回新しいアレンジで作り直しました。「80denier」は、身の回りにあるコップとかを叩いてサンプリングしているので、手作り感のある音になっていますね。あえて一緒に作業してもらったメンバーには原曲を聞かせていないんです。新しいアレンジは、今の自分が好きなサウンドになったと思います。