スピッツ、連続テレビ小説『なつぞら』主題歌「優しいあの子」と「ロビンソン」の関係性
“優しい子”とはどういう子なのだろう。それを表しているのが冒頭の歌詞なのだと思う。“重い扉”に閉ざされている子、自分にも“知らない世界”が待っていることを知らない子、“切り取られることのない丸い空の色を知らない”子。そういう子たちが〈優しいあの子〉であり、つまり、「ロビンソン」で言えば〈猫〉だろうか。
“優しさ”に分の悪い時代だ。“優しさ”よりも“問答無用の強さ”や“威勢の良さ”の方が大手を振って歩いている。表に出られずに閉じこもってしまう。そんな“優しい子”たちに向かって歌っているのがこの曲だと思う。
注目しなければいけないのは〈教えたい〉と歌っていることだろう。一緒に宇宙の風に〈乗る〉のではない。教える側”に回っている。
なぜ、そんな風に思っているかが2番のように聞こえた。彼らがこれまでに経験してきたこと。“泣けるほどの憧れ”が“砕かれたこと”や“胸に抱いていた火”が“消えかけた”ことがある人。それがスピッツ自身の軌跡と解釈することは出来ないだろうか。
そうやって辿り着いたのが〈コタン〉だった。北海道に開拓前から暮らしている先住民たちの集落である。そこは「優しい人たち」が暮らしている。
スピッツは“すき間の詩人”なのだと思う。
“音のすき間”や“言葉のすき間”。余計な音や刺激的な音、饒舌な言葉でそれを埋めない。“心地よいすき間”を作り出そうとしている。〈優しい〉や〈教えたい〉の“い”の繊細な余韻はその“すき間”に沁みとおって行くからでもあるのだと思う。
世の中はどんどん窮屈になっている。ささやかな“すき間”も許されないほど人は密集し、情報が埋め尽くしてゆく。その反面、“心のすき間”は広がって行く。“すき間”に対して愛おしさが彼らの音楽でもあるように思う。そして、北海道の広い空は彼らにとって“理想のすき間”だったのではないだろうか。
「ロビンソン」を発表した時、彼らは20代だった。すでに25年が経とうとしている、と書いていて〈あの子〉の中にはバンド活動に踏み出す前の彼ら自身も含まれているのかもしれない、と思った。そして、ここまで来た。だからこそ〈ありがとう〉なのではないだろうか。
「優しいあの子」が「ロビンソン」の成長形に聞こえたのは僕だけだろうか。
■田家秀樹
1946年生れ、雑誌編集者、放送作家を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、音楽番組パーソナリテイ。FM NACK5、FM COCOLOでレギュラー番組放送中。「読むJ-POP・1945~2014」(朝日新聞出版)「70年代ノート」(毎日新聞出版)など著書多数。日本のロック・ポップスを創成期から見続けている。
■配信リリース情報
6月19日AM0時より「優しいあの子」配信スタート
・iTunes
・レコチョク
ほか
■CDリリース情報
ニューシングル『優しいあの子』
2019年6月19日(水)発売
¥1,000+税
<収録楽曲>
01. 優しいあの子(NHK 連続テレビ小説『なつぞら』主題歌)
02. 悪役
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■番組概要
2019年度前期
連続テレビ小説『なつぞら』
放送局:NHK
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人 / 岡田将生、吉沢亮 / 高畑淳子、草刈正雄 ほか
主題歌:スピッツ「優しいあの子」
番組HP