シンガーソングライター大原ゆい子、アニメ作品に寄り添った変幻自在な楽曲制作力

“既視感の作り方”が共感を呼ぶ歌詞

 大原は作詞をする際に原作を読み、自分の経験だけでなく、ファンの目線も意識するそうだ。また普段から、ドラマを見たり小説を読んだりして、その作品に沿った楽曲を作る試みを行っているとのこと。アニメのシチュエーションや登場人物の関係性をしっかり踏襲しながら、聴いた人自身の状況や思い出に重ねて楽しむことのできる歌詞のスタイルは、彼女の音楽の魅力の1つになっている。

 「言わないけどね。」は、好きな相手についちょっかいを出してしまう、主人公の高木さんの淡い恋心をベースにしながら、アニメがこういう展開になったらいいなという自身の願望も込められ、さらに誰もが経験した学生時代の甘酸っぱい経験を思い出させてくれる。「ハイステッパー」は、バドミントンに青春をかける高校生たちの汗や涙、スピーディーな試合展開を彷彿とさせる、アッパーのロックサウンドと切なさ溢れるマイナー調のメロディは青春の光と影といったイメージで、部活に熱中した経験のある人なら、自分のことのように手に汗を握ってしまうだろう。思わず自分と重ねてしまう、既視感の作り方がとても上手い。

 アニメ作品にしっかり寄り添いながら、単なるタイアップには終わらない。しっかりそこに自身の思いを宿らせながら、聴く側の気持ちも重ねて生み出される大原ゆい子の楽曲。これは当たり前のことのようだが、決して簡単なことではない。そこには彼女のアーティストとしての資質や、細部にわたる気づかいや愛情が感じられる。7月からはTVアニメ『からかい上手の高木さん2』の放送も決まっており、1期に続いて大原がオープニングテーマ「ゼロセンチメートル」を担当する。今度はどんなドキドキを体験させてくれるのか、アニメの放送を心待ちにしたい。

■榑林史章
「THE BEST☆HIT」の編集を経て音楽ライターに。オールジャンルに対応し、これまでにインタビューした本数は、延べ4,000本以上。日本工学院専門学校ミュージックカレッジで講師も務めている。

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