夏川椎菜、東山奈央……多彩な声色&演技力を発揮した声優音楽に注目

 声優が声優たらしめる理由、それは声色と演技力がいかに卓抜としているか? そしてこだわりをもっているか? そこに尽きると思う。アニメのキャラソンや声優の音楽が大きな注目を集める中でも、昔から変わらずこの一点はブレることなくある。今回は東山奈央と夏川椎菜の最新作に、声優ならではの声色の多彩さや演技力ともいえよう歌唱力を見つけてみよう。

夏川椎菜『ログライン』

 2010年代の声優音楽シーンを引っ張ってきたグループといえば、TrySailが挙げられるだろう。3枚のアルバムを発売し、全国ツアーを幾度となく開催、声優としての活動と並行し、今年で活動歴5年の節目を迎えた。

夏川椎菜『ログライン』

 メンバーである雨宮天、麻倉もも、夏川椎菜の3人は、それぞれにソロでも精力的に活動。そして今年4月には、夏川椎菜が1stアルバム『ログライン』を発表した。

 意外なことに、彼女は2017年にシングル『グレープフルーツムーン』でソロデビューを果たすまでは積極的に音楽を聞くタイプではなかったことを告白している。TrySailでの活動を通して感じていた「歌うこと」への距離感や、麻倉ももと雨宮天2人のソロ活動を目の当たりにしてきたことで生まれた葛藤などが、彼女を消極的にさせていたようだ。

 だが、音楽に馴染みが薄った彼女は、一念発起し、片っ端から音楽を聞き始め、スタッフへ自分の考えをうまく伝えようとかなりのインプットに励むようになる。インタビューによると、今作『ログライン』制作時にはスタッフに口うるさく言えるようになったという。それも楽曲のアレンジだけにとどまらず、ミキシング、マスタリング、トラックダウンそれぞれの現場に立ちあい、細やかなニュアンスにもこだわりを持つようになった(参照)。

 音楽に対して感じていた壁を乗り越えて自分らしいこだわりを持って臨んだ今作は、EDM〜エレクトロサウンドとバンドサウンドの2軸で支えられたアルバムである。と同時に、苦手意識を持っていたボーカルに対して、彼女がいくつもの歌い方にチャレンジしていることからも、彼女の変貌ぶりを感じられる。

 例えば「ラブリルブラ」と「Daisy Days (Album Mix)」は、前者では滑舌をハッキリとさせずあえて気だるそうに歌っているが、後者では比較的ハッキリとした発声で明るめな声色で歌っている。2ndシングルにもなったEDM系楽曲「フワリ、コロリ、カラン、コロン」では抑揚をかなり抑えた歌い方だが、3rdシングル曲「パレイド」ではソフトな歌い始めから徐々に声を張っていく感情に沿ったボーカルを聴かせてくれたりと、変化をつけたボーカルでリスナーを飽きさせないようにこだわっているのだ。

 歌に、音楽に、彼女は一つ一つに意識を払うようになった。ソロデビューからわずか2年で大きな変貌を遂げた彼女の、こだわりとセンスが詰め込まれた処女作だと言えよう。

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