夏川椎菜、東山奈央……多彩な声色&演技力を発揮した声優音楽に注目
東山奈央『群青インフィニティ』
歌い方に豊富なボキャブラリーを持つ女性声優といえば、ソロデビュー以前にも100曲以上のキャラクターソングを務め、数多くのキャラクターを演じてきた東山奈央を忘れてはいけないだろう。
彼女が演じた代表的なキャラクターといえば、10代なかばから20歳初めころのキャラクター、特に女子高生を務めることが多く、最新アルバム『群青インフィニティ』で歌われるような青春性や清々しさといったイメージは、いまのところ彼女の代名詞といってもいいのかもしれない。
シングル曲となった「灯火のまにまに」「群青インフィニティ」「未来YELL!」ではバンドサウンドを、「Action」「青空ダイアリー」「I Want You To Know Baby」のEDMエレクトロサウンドを軸にし、絶妙に毛色の違ったサウンドスケープがある。また、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDが作詞作曲を務めた「Living Dying Kissin'」は、00年代のDaft Punkを思わせるフレンチハウスと80年代のテクノポップが持ち合わせていたファンキーさが隠し味になった1曲だ。
微妙なさじ加減で統一感がもたらされた1枚となった『群青インフィニティ』。今作がドラマティックなものとしてリスナーに届くのは、東山奈央による歌唱力、いや演技力なのだろうと思う。
「ゆれる」での、低めのアダルティな声色と余韻を引きずるような歌い口は、物語のような歌詞が綴じられたこの曲に対して、まさにピッタリ。この声色を当てるために、わざとボーカルメロディを調整したのでは? と勘ぐってしまいたくもなる。
今作において、東山奈央の演技力を最も引き出したといえるのが「さよならモラトリアム」であろう。歌詞に沿って、女神、子供、少女、大人にイケメンと、わかりやすくキャラ付けた声色を、歌という形として収めている。
おそらくパンチイン(すでに録音された音を部分的に差し替える録音の方法)を駆使しつつ、うまく調整を加えながら収録したのだろうとは思うが、破天荒に展開し続けるハイテンションな楽曲に合わせつつ、何人もの登場人物を演じきってしまうのは、多くのキャラソンをこなし、声優として豊富な経験をもった、いまの東山奈央だからこそできた到達点だといえよう。
それぞれ最新作で、夏川椎菜は多彩な声色を使い分け、東山奈央は持ち前の演技力(歌唱力)を発揮した。ソロシンガーとしてまだスタートを切ったばかりの2人ではあるのだが、今後より素晴らしい楽曲を生み出してくれそうな予感も感じられる2作品であり、声優が生み出せるポップスとして、一つの解答例を見せてくれたといえる作品となったのだ。
■草野虹
福島、いわき、ロックの育ち。『Belong Media』『MEETIA』や音楽ブログなど、様々な音楽サイトに書き手/投稿者として参加、現在はインディーミュージックサイトのindiegrabにインタビュアーとして参画中。
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