ichikaというプレイヤーの可能性 独創的なスタイルとInstagramで広がるネットワーク

 2019年に入ると、3月にichikoroとして「Tom!!!」と「James?」という2曲の新曲を発表。ichikaと川谷に、新作『DUSK』が素晴らしかったインストバンドNabowaの景山奏も加えた3人のギタリストによるアンサンブルに、ちゃんMARI、休日課長、佐藤栄太郎というこちらも負けじと個性的なプレイヤーが音を重ね、2分半というコンパクトな尺の中に様々なアレンジを詰め込んだユニークな仕上がりとなっている。

Tom!!!
James?
ichika『I』

 4月にはソロ名義で初めてボーカリストとコラボレーションをした『I』を発表。Sleepyheadの武瑠、あっこゴリラ、クラムボンの原田郁子、OKAMOTO’Sのオカモトショウ、タイトルトラックの「I」には川谷と、計5名のゲストが参加している。しかも、これまでのギターインストとは異なり、R&Bやヒップホップを通過し、歪んだギターも加えた多彩なトラックを自ら手掛け、音楽家としての新たな一面も開示。自ら歌ってはいないものの、トム・ミッシュにも通じる次世代感が感じられる手応え十分の作品だ。

ichika - I (Official Music Video)

 ichikoroとしての活動や、ボーカリストとのコラボなどから見えてくるのが、SNSを通じたミュージシャン同士のネットワーク。近年はInstagramへの動画投稿をきっかけにミュージシャン同士が繋がり、コラボレーションが行われることがひとつの流れになっていて、ichikoroのスタートにしても、ichikaと川谷がInstagramで繋がったのがきっかけ。昨年で言えば、アメリカの新世代ギターインストバンドPolyphiaの新作『New Levels New Devils』に、Instagramのフォロワー80万人以上で、5月にバンドでの来日を控えるギタリスト、マテウス・アサトらとともに、ichikaも参加していたのが象徴的だった。

 『関ジャム 完全燃SHOW』で川谷はichikaについて、「いずれ海外の有名なミュージシャンのトラックを作り、グラミー賞を獲るかもしれない」と語ったが、放送終了後のTwitterでichikaは、世界トップクラスの若きDJマーティン・ギャリックスからInstagramを通じて連絡が来たことを報告。ichikaはすでに日本人プロデューサーのRinzoとコラボもしているが、打ち込みのトラックメイカーが、決してプログラミングでは作り得ないミュージシャンのプレイに惹かれ、自らの音楽に取り入れようと考えることもまた、時代の必然の流れだ。先日はPerfumeのコーチェラ出演が大きな話題となったが、ichikaもまた世界に名を轟かせる可能性を持った一人だと言っていいのではないだろうか。

■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。

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