『We are all』インタビュー
ワンダフルボーイズ『We are all』インタビュー Sundayカミデが表現する、人生と音楽の歩み
僕とあいみょんが繋がった。それはすごく不思議な縁。
――今作には「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」のような過去曲も収録されていますよね。こうした曲は、「We are all」とは対極の「小さな世界」が描かれている曲だと思うんです。「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」のような曲と、「We are all」のように今のSundayさんから生まれてきた曲は、どこかでつながっていると言えますかね?
Sunday:「君が誰かの彼女になりくさっても」は29歳くらいの頃、すごく恋愛していた頃に作った曲なんですけど、この曲と「We are all」が直接的につながるかといえば、そうではないと思うんです。でも「君が誰かの彼女になりくさっても」から「We are all」までの間になにがあったのか? っていうことを説明する曲も入れたいっていう感覚で、このアルバムのトラックリストは作っているんです。「エビバリスイング」なんかは、「君が誰かの彼女になりくさっても」よりももっと前の、今から20年前くらいに作った曲なんですよ。あと「CULTURE CITY」は、20歳くらいの頃に、女の子のシンガーにトラック提供していた頃のトラックをそのまま使っているんです。そういう曲も入れることで、自分の人生の時系列を、大きく捉えてアルバムを作りたかったんです。そもそも「アルバム」ってそういうことだと思うんですよ。昔のことや今のことが同じ1冊の中で見ることができるっていう。
――今作のジャケットはワンダフルボーイズの前身である、しゃかりきコロンブス。のミニアルバム『君が誰かの彼女になりくさっても』のオマージュになっていますよね。ここにも、Sundayさんの人生の時系列を表現するという意志が垣間見えるのですが。
Sunday:しゃかりきコロンブス。のアルバムの、少年がロバを持って笑っていて背景が燃えている絵が、僕にとってはすごく衝撃的だったんですよね。描いてくれたのは、しゃかりきコロンブス。~ワンダフルボーイズの全てのビジュアルを担当してくれている阿野(義知)くんだったんですけど、あの頃、阿野くんが「この絵はアルバムのジャケットには向いていないと思うけど、もう二度と描けない絵なんです」と言っていて。「なら、それを使おう」っていう話になったんですけど、その時、「この先、お互いが『もう二度とできない』ことをもう一度やれる時がきたら、その時もう一度、ロバの絵を描いてください」っていう話をしたんです。
――それが、このタイミングだったんですね。
Sunday:そうですね、僕にとってはこのメジャーデビューが、もう一度世に出ていくタイミングでもあるので。今回、僕は「君が誰かの彼女になりくさっても」を再録音して、阿野くんはもう一度ロバの絵を描いてくれたんですけど、お互い、あの頃に比べてトゲトゲしさはなくなったなって思います。今回の「君が誰かの彼女になりくさっても」は、いい意味でデコボコのない、しっかりとした楽曲に仕上げることができたと思うんです。それに阿野くんが描いてくれた絵も、今回は、背景が燃えていないんですよね。今の阿野くんは、背景を燃やすことが「できなかった」のか、あえて「やらなかった」のか……それはわからないんですけど、僕にも年齢を経ることで音楽的にできなくなったことや、あえてやろうと思わなくなったことはあるので。お互いそういう変化がある中で組み合わさったのが、このアルバムなのかなって思います。
――話を聞いていると、このアルバムは「大人になること」を肯定し祝福するようなアルバムなのかな、と思えてきました。
Sunday:そうですね。大人になって成熟することは、嬉しいことでもあるし、受け入れざるを得ないことでもあるし、「もう20代の頃のようにはできないんだな」っていう感覚もあるし……。若い頃の、昔の自分を追いかけたくなる気持ちもあるんですけど、でも、「やっぱり追いかける必要はないな」と思えたり……そうやって迷いながら受け入れていく感じですよね。
――ただ、そうして迷いながらも大人になることを受け入れていく中で、「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」は、ずっと歌い続け、作品に収録され続ける曲になっている。Sundayさんを見ていると、「ひとつの曲を作り続けるということは、どういうことなんだろう?」と思うんです。何故、Sundayさんは「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」を作り続けるのでしょか?
Sunday:なんだろう……やっぱり、〈なりくさっても〉の部分じゃないですかね。違和感のある言葉遣い。「天王寺ガール」だったら、〈友達にも嘘をついて/君は踊り狂うのさ〉っていう部分とか、こういう言葉の違和感があるからこそ、この2曲はずっと新鮮に向き合えるんじゃないかと思います。あまり言ってはダメな言葉じゃないですか、〈なりくさっても〉なんて。でも、それをサビでバッチリ歌い切ってしまっている、この違和感にずっと向き合える。他の言葉はすべて綺麗なんだけど、〈なりくさっても〉の一言ですべてを汚してしまえる、この違和感。これによって曲の生命力が増している……って、以前、『関ジャム 完全燃SHOW』でいしわたり淳治さんが言ってくれたことの受け売りなんですけど(笑)。
――ははは(笑)。でも、きっと本質ですよね。
Sunday:テレビを見ながら「そう、それ!」って気づきました(笑)。言葉にしてはいけないような感情が、〈なりくさっても〉の一言によって言い表せているのかもしれない。今でもこの曲を歌うときは悩むんですよ。〈なりくさっても〉なんて歌っていいのかな? って。この一言があることによって、この曲を不快に思う人だって絶対にいるじゃないですか。でも、そうやって思いながら向き合うことができる曲って、そうないんですよね。「君が誰かの彼女になりくさっても」は「何回アルバムに入れるんだよ」って突っ込まれたりもするんですけど(笑)、でも曲って、一生かかって完成させていくようなものでもある気がしていて。特に「君が誰かの彼女になりくさっても」や「天王寺ガール」は、自分にとってそういう曲なんだろうと思います。
――「なりくさっても」という言葉に象徴されるような、人の心の中に芽吹く苛立ちや悲しみ、怒りの感情もちゃんと内包しているからこそ、「We are all」というスケールが大きくポジティブなステートメントが説得力を持って響くアルバムですよね。先にも言ったように、このアルバムは子供が大人になっていくことを肯定するアルバムでもあり、同時に「人は変わらないよ」と言ってくれる優しさにも満ちたアルバムだと思います。
Sunday:「We are all」って言っていますけど、僕だって生活している中で、いろんなことにイラっとしたりされたりしながら生きていますからね。……この話はいろんな場所で言いすぎて新鮮味がないんですけど、新幹線の椅子のポケットの中に弁当のゴミを残したまま下りていく人が、僕は大嫌いなんですよ。時間が許すなら、その人を追跡して、あらゆる罰ゲームを与えたいくらい嫌いなんです。
――……相当嫌いですね。
Sunday:でもまぁ、そういうことって誰にでもあるじゃないですか。僕も誰かに同じように嫌われているだろうし。人間は、ある場所ではいい人でも、他の場所ではいい人じゃない……それの繰り返しだから。それならとにかく「僕らは同じ自転の中で生きている」っていうことを理解しようよっていうことですね。全てを求めなくていいから。
――嫌いな人を「好きになれ」と言われると厳しいけど、「とりあえず同じ空間にいるんだからさ」と言われると「まぁ仕方がないのか……」となったりしますもんね。でも、改めて思うのは、ワンダフルボーイズが結成されたのは2010年ですけど、2010年代って、ポップミュージックの歴史的観点から見ても、絶対的なスターが簡単に生まれてこなかった時代ですよね。ネットの影響もあって、非常に細分化が進んだ時代でもあった。でもそんな時代において、ワンダフルボーイズは異様にスケールが大きな音楽を作り続けてきたんですよね。「大きなこと歌う」「大きなメロディを鳴らす」ということを、臆面もなくやってきたバンドだなって。
Sunday:「平和 to the people!!!」とかね。初期の僕の曲を聴いた人たちからは、よく「牧歌的だね」って言われたりしていました。まぁ、それとは別に、昔はテクノミュージックを作ったりもしていたので、そういう音楽では、ある程度時代のことを考えたりもしていたんですけどね。でも、しゃかりきコロンブス。~ワンダフルボーイズでは、そういうことは一切隅に置いておこうと思ったんですよね。最新の何かではなくて、自分から出てくる自然な歌を、自然に録音しようって思っていました。20歳くらいの頃に見つけた、僕が3歳の頃に作曲した曲のカセットテープがあるんですけど、それを聴くと、今とほとんど同じメロディなんですよね。「泥棒さんこんにちは」っていう曲で、ピアノの弾き語りで作った曲なんですけど(笑)。3歳の頃から変わっていないんですよね。その頃から、優しいメロディというか、穏やかで口ずさみやすいメロディを作っていて。
――そういった普遍的な音楽が求められる日がいつかくるという確信が、Sundayさんにはあったのでしょうか?
Sunday:いや、そういうことではなかったです。むしろ新しい機材で新しい音を作った方がいいと思っています。でも、それをやる人はいっぱいいるし、それ以上に僕が重心を置いているのは、「その人にしか鳴らせない」と思えるものを作ることなんだろうと思うんですよね。それが求められるのであれば、幸せだろうし。
――さっきも言ったように、この10年間は非常に細分化が進んだ時代でしたけど、最近は逆に、あいみょんさんのようなメガスターが再び登場する世の中になっていて。そんなあいみょんさんの作品にSundayさんが関わられていたというのも、何かをすごく象徴しているような気はするんですよね。
Sunday:是非、その「何か」を言語化してほしいですね(笑)。でも、本当にそうだと思います。今や『NHK紅白歌合戦』に出るような人と自分が繋がっていた……そのストーリーの間には、数多のアーティストの存在があったような気もするんですよ。それは奇妙(礼太郎)くんであったり、KING BROTHERSであったり。あいみょんが好きだと言って聴いてきた、そういう人たちの存在が間にあった上で、僕とあいみょんが繋がった……それは偶然なのか必然なのか、わからないですけど、すごく不思議な縁ですよね。
(取材・文=天野史彬/写真=はぎひさこ)
■ライブ情報
『Love sofa Tokyo』
5月19日(日)代官山UNIT・UNICE
OPEN14:00/START14:30
<LIVE>
ワンダフルボーイズ
奇妙礼太郎
DENIMS
空きっ腹に酒
ライトガールズ
浜崎貴司
TENDRE
有馬和樹(おとぎ話)
浜田一平
PARIS on the City!
◎プレイガイドにてチケット発売中
■リリース情報
4月10日(水)発売
価格¥2,500+税
<収録曲>
1. CULURE CITY
2. We are all
3. 君が誰かの彼女になりくさっても
4. LOUVRE
5. 天王寺ガール
6. エビバリスウィング
7. サンセット通り
8. TOUR
9. Somewhere
10.A special song
■配信情報
iTunes Store、レコチョク他、各配信サイト また LINE MUSIC、Apple Music、Spotifyなど主要定額制音楽ストリーミングサービスにて配信中。