西野カナが支持され続ける理由は“言葉のチョイス”にあり? ラブソングの変遷を辿る

 一方、2014年の「Darling」「好き」以降は恋人に向けたまっすぐな気持ちや、女心をわかってほしいというメッセージが描かれるように。結婚の報を聞いた今なら、その変化にプライベートも影響していたのではないかとも考えてしまうが、さすがに野暮だろう。とはいえ、どちらのタイプの楽曲とも多くの同性から共感を得ているのは事実。では、彼女の詞の何が女性たちの心を捉えて離さないのか。

西野カナ 『Darling』MV(Short Ver.)

 その最たるは言葉のチョイスにある。たとえば「トリセツ」で自分自身を“一点物”“永久保証”とアピールする場面。ほかの誰でもない自分だけの価値を恋人に知ってほしいという女心を、ここまで簡潔にシンプルな言葉で表した歌詞はほかにはないのではないだろうか。

西野カナ 『トリセツ』MV(Short Ver.)

 また「29」は、30歳を目前に控えた女性の気持ちを歌った1曲。〈Goodbye 花の20代 Goodbye 私の青春〉と20代を全力で肯定しながら、年齢を重ねることへの不安を軽く笑い飛ばしていく。それを29歳当時の西野が歌ったことも、言葉にリアリティが増す要因となった。歌詞を書く際、周囲に徹底的にリサーチすることで知られる彼女は、用いる言葉も意識的に選択している。より多くのリスナーにリーチし、心を動かす言葉をいつも探ってきた。だぁらこそ“西野節”とも言える歌詞世界が生まれたのではないだろうか。

 今回の西野カナの活動休止に関しては、ファンからの反応も意外なほど肯定的なものだった。これまで彼女とともに歩み、楽曲を通して思いを共有してきたことで、突然にも思える決断も自然に受け入れられた人が多かったのかもしれない。また、休止への思いを綴ったメッセージには「やっぱり私は歌が好きで、これからもきっと毎日のように歌を口ずさんでいる気がします」との一文がある。あくまで活動の休止、音楽から退くということではないようだ。再びステージへと戻ってくる時、彼女は一体どんな世界を携えているのだろうか。今はただ再会がそう遠くない未来であることを願っている。

■渡部あきこ
編集者/フリーライター。映画、アニメ、漫画、ゲーム、音楽などカルチャー全般から旅、日本酒、伝統文化まで幅広く執筆。福島県在住。

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