はなわの音楽はなぜ度々注目される? 時代を読むプロデュース力、憎めないイジり方などを分析
時代を読んだプロデュースワーク
音楽的な視点では、はなわの楽曲は小さい子供でも歌えるシンプルさ、耳に残る繰り返しのメロディ、どこかグッとこみ上げてくるものがあるエモーショナルな楽曲展開があるところが特徴だ。アップテンポのパンクサウンド「佐賀県」の〈ウォーウォーウォー〉というコーラスやマイナー調に転じるBメロ、一転アンセム感たっぷりのサビは、もはやメロコア。「佐賀県」が発表された2003年には、175Rの「空に唄えば」やFLOWの「贈る言葉」などがヒットしていて、そうした背景も「佐賀県」のヒットを後押ししたのではないだろうか。
歌詞の内容も、世間が求めるものと合致していたように思う。「お義父さん」では、家族のエピソードを通じて、父親の喪失や日常生活の幸せを歌にしていた。それは、母を亡くした思いを綴った「花束を君に」(宇多田ヒカル/2016年)や、日々の幸せを描きつつ同時に失う恐ろしさにもふれた「Family Song」(星野源/2017年)などとも通じるところがある。また、こうした“家族”というテーマに、はなわらしい愛情たっぷりのユーモアを含みながら挑んでいったことも、他のアーティストとの差別化に繋がったのではないだろうか。
時代の流れを敏感に察知し、それを自身の音楽に繋げているという点において、はなわのプロデュース能力は非常に高い。実際に2006年からは、はなわが所属するケイダッシュステージの女性タレントで結成した音楽ユニット=中野腐女シスターズ(現在は風男塾として活動中)の詞曲やサウンドプロデュースを10年以上に渡って務めている。アイドル戦国時代と呼ばれた10年の間、ユニットを存続させた功績は大きく、はなわ作詞作曲の「BE HERO」(2014年9月リリース)は、オリコン週間チャートで2位に輝いているほどだ。また、自身が主催する音楽イベント『はなわ音楽会』を定期的に開催して、お笑いと音楽を融合したステージの発信にも務めている。
笑いと音楽の“ちょうどいいところ”を見極めるセンス
お笑いと音楽の親和性の高さは、クレージーキャッツやドリフターズに始まり、嘉門達夫の「鼻から牛乳」が一大ブームになったことや、その後の波田陽区、AMEMIYA、どぶろっく。近年ではピコ太郎、RADIO FISH、ブルゾンちえみ、にゃんこスターなどを生んできたことからも明らかだ。言葉だけでは角が立つことも、音楽というオブラートに包むことで笑いに転換することができ、音やリズムで簡単にオチをつけることができる。音楽は、お笑いにとっては魔法のアイテムであるが、それだけに使い方が難しい諸刃の剣でもある。ユーモラスな表現から真剣なメッセージまで、自由に音楽の中で行き来することができるはなわのような存在は異例だ。
あくまでもディスるのではなく、人を傷つけないやさしいイジり方と、時代が求める音楽を的確に読んだプロデュース能力の高さ。お笑いと音楽の“ちょうどいいところ”をピックアップするセンスが、実ははなわのすごいところ。テレビでたびたび見せる家族思いのお父さんぶりも実に好感度が高く、それも楽曲の印象にプラスに働いている。ディズらずイジって時代にフィットした、「埼玉県のうた」を契機に、新たなはなわブームの到来に期待が高まる。
■榑林史章
「THE BEST☆HIT」の編集を経て音楽ライターに。オールジャンルに対応し、これまでにインタビューした本数は、延べ4,000本以上。日本工学院専門学校ミュージックカレッジで講師も務めている。