アイドルの夢は終わらないーー妄想キャリブレーション、ラストライブで提示した5人の未来
DJブロックが終わり、会場のスクリーンには2013年の妄キャリ結成から約5年に渡るグループの歴史がVTRで流れる。そのナレーションを担当したのが、胡桃沢。もともと自分の声が好きではなかった彼女は、妄キャリの活動を通し声優という夢を見つけた。決して順風満帆とは言えなかった妄キャリの歴史を、唯一の結成当時からのメンバーである胡桃沢が振り返っていくのは、ある種必然だったようにも思える。“宝物の1曲”として、メンバーが作詞に参加し、夢だったアニメ『冴えない彼女の育てかた♭』のエンディングテーマ「桜色ダイアリー」に繋がっていくのも憎い演出だ。
羽咲桜野は本編終盤に「忘れられないクロニクル」をアカペラで歌い出した。彼女が進むのは歌手の道。力強くどこまでも伸びていくような歌声でサビの一節を歌うと、一瞬の静寂の後、会場が一気に沸き立つ。幾度ものライブを重ねてきた妄キャリのパフォーマンスは、歌唱力、ダンスと共に全員がハイレベルであるが、特に羽咲桜野の歌声はグループの武器と言えるものであった。まるでファンをリードしていくような羽咲桜野の歌声が響くパートは、ソロとしてステージに立つ未来の彼女の姿を想像させた。
星野の夢はカメラマン。アンコール前、スクリーンには星野が撮影したメンバーの動画、スチールがスライドで流れた。撮影される側だったからこその、カメラマンとしての強みが星野にはある。にこにこパークの遊具に乗ったり、子どもと戯れるメンバー。淡い思い出として輝く一瞬、一瞬に素顔のメンバーがいた。「ひとまずは1年ぐらい普通に暮らして、資金を貯めてから、カメラの学校に行きたいなって思ってます」というインタビューでの発言に期待しながら、彼女のクレジットが話題になる未来を楽しみに待ちたい。
アンコールの「手をつないで」「帰り道」の2曲は、雨宮がピアノを演奏した。「桜色ダイアリー」は、彼女がピアノでレコーディングに参加した1曲。「五線譜」「back stage」、そしてラストライブ後をイメージしてメンバー5人が作詞した「帰り道」も雨宮が作曲した楽曲だ。故郷への凱旋公演となった富山でのライブに続く、ピアノ演奏。幸せそうに笑みを浮かべながら弾く雨宮の姿と、4人の間に信頼関係が見えた。また、ダブルアンコールが終わり、スクリーンに流れたエンドロールのコスチュームには「雨宮伊織」のクレジットが。彼女はメンバーの中で一人、表舞台には立たない裏方として活動していくことを公表している。つまり、ファンの前に立てるのはこれが本当に最後ということ。“伊織との約束”としてファンと結ばれた「健康で幸せになってください」は、アイドルがファンに残すメッセージとして120点だ。
2018年は、中堅アイドルが次々と解散を発表した年だった。グループそれぞれに活動を終える違った理由があるはずだが、世間一般から見ればそのほとんどがネガティブなイメージに捉えられており、妄キャリも決して例外ではないだろう。昨年は筆者も多くのアイドルグループの最後を見届けてきた。アイドルとしての活動を全うし表舞台から去るものもいれば、前キャリア同様、もしくはそれ以上に脚光を浴びているものもいる。アイドルとは誰かの夢の存在であり、次の夢を叶えられる場所でもあるということを、2018年は強く実感し、妄キャリのラストライブを観てそれを再認識させられた。ラストライブで次のキャリアを示すことができる5人は、きっと幸せだっただろう。5人それぞれの色が再び光を放ち出すのは、そう遠い未来ではないはずだ。
■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter