CHAI、『PUNK』で勢いはさらにブースト サウンドに息づくポストパンクの精神とポップな捻り

 近年稀に見る破竹の勢いで活躍のスケールを拡大し続けるCHAI。2018年は『ミュージックステーション』など地上波のテレビ番組への露出が増え、音楽誌に限らない多様なメディアでそのキャラクターと力強いメッセージが取り上げられた、躍進の1年だった。さらに立て続けにアメリカデビューとイギリスデビューを果たし、SuperorganismのUKツアーにも帯同。Pitchforkをはじめとした海外メディアからも注目を集めた。

 2ndアルバム『PUNK』はCHAIの勢いをさらにブーストする一作だ。ユーモアに包まれたポジティブで力強いメッセージが日本中に届けられることも痛快ならば、それと同じくらいこのサウンドが日本中に響くこともまた痛快だ。

 CHAIのサウンドはずっしりと重く、歪みなんてまるで気にかけていないかのようにスピーカーを震わせる。実際、楽曲の屋台骨となるのはドラムのユナとベースのユウキによるリズム隊で、特にドラムはキックとスネアのチューニングの低さが印象に残る。ずっしりとした迫力あるドラムの存在感は、日本のロックバンドのなかでも随一ではないだろうか。

 ベースとドラムの存在感やファンクやソウルの影響も感じるアンサンブルは、そのローファイさもあいまってか、1970年代末から80年代にかけてのポストパンクを思い起こさせる。つけくわえれば、サウンドだけではなく、アティチュードの点でも。CHAIを聴いて、The SlitsやAu Pairs、The Raincoatsといったフェミニズム的なメッセージを掲げたポストパンク世代のバンドを思い出した人も少なくないはずだ。

Typical Girls
No One's Little Girl

 具体的なサウンドの例としては、サウスブロンクスで活動したスクロギンズ姉妹によるバンド、ESGを挙げたくなる。ヒップホップのサンプリングネタを数多く生んだことでも広く知られているが、彼女たちの魅力もベースとドラムがぐいぐいと引っ張るグルーヴだ。CHAIのデビューアルバム『PINK』でオープニングを飾る「ハイハイあかちゃん」などは、「Tiny Sticks」や「Moody」といったESGのクラシックをポップに蘇らせたかのようでもある。

Tiny Sticks

 こうしたリズム隊の押しの強さから考えると、CHAIの人懐こいポップさは、稀有なバランスで成り立っている。ダンサブルで享楽的なアレンジは、彼女たちがフェイバリットに挙げるCSSやPhoenixといったゼロ年代のインディロックとか、Basement JaxxやJusticeといったダンスアクトなどから受け継いだものだろう。さらにマナとカナによるツインボーカルのチャーミングで抜けがいい声質が、荒っぽい音像を一気に鮮やかに染め上げる。トータルで見ると、爆音でその迫力に浸ることもできれば、ポップソングとしても抜群の存在感を放つ、守備範囲の広いサウンドと言える。

CSS - Off The Hook (OFFICIAL VIDEO)

 『PUNK』でもその魅力は健在で、さらにソングライティングに趣向が凝らされ洗練されている。ここが遊び心のある展開をはさみつつも楽曲自体はシンプルに突っ走るものが多かった前作からの進化だ。なにより、これまでもキャッチーなフックで披露していたメロディセンスを存分に発揮しているのが楽しい。CHAIらしい、固定観念をものともせずポジティブなメッセージを伝える「アイム・ミー」や「Feel the BEAT」が耳馴染みよくエモーショナルなメロディを紡ぐ様はちょっと感動的だ。また、溢れんばかりのパワーでほとんどクリッピングを起こしかけていたサウンドも、迫力はそのままながら聴きやすく丁寧にケアされている。

CHAI『アイム・ミー』Official Music Video

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