清 竜人が考える、今のJ-POPに必要なこと「世の中の流れを否定して、新しいものを作っていく」

清 竜人が考える、今のJ-POPに必要なこと

清 竜人「サン・フェルナンドまで連れていって」MUSIC VIDEO

清 竜人が考える“プロ”の条件 

ーー2曲目「サン・フェルナンドまで連れていって」もメロディが魅力的です。サン・フェルナンドはフィリピンの街ですか?

清 竜人:はい。でも、その土地にこだわっていたわけじゃないんです。メロディに合ういい地名がないかなと探しているときに、語感のよさで選びました。昔の素敵な歌謡曲って、あまり聞いたことのない地名が入ってたりしましたよね(笑)。今でこそ聞き馴染みがあるけど、当時はそこまでなかったという地名が。

ーー大滝さんつながりで、たとえば「冬のリヴィエラ」とか。

清 竜人:そうですね(笑)。何かこう異国情緒をくすぐるものにしたいと思ったんです。

ーーこの曲のアレンジは星 勝さん。

清 竜人:星 勝さんのアレンジ、大好きなんですよ。ギターのアレンジにすごく色のある方で。

ーー星 勝さんといえば井上陽水さんの「氷の世界」ですもんね。この曲でも、冒頭の「キュイーン」というギターで歌の世界に連れて行かれました。3曲目「涙雨サヨ・ナラ」はどんなふうに生まれたものですか?

清 竜人:これはストックにあった曲。今回久しぶりに引っ張り出してみたら、ちょうど狙ってた匂いに近かったので、新たに歌詞を乗せました。

ーーアレンジは瀬尾一三さん。雨の景色が浮かぶのにどこか温かいサウンドですね。

清 竜人:井上さんは60代ですけど、星勝さんと瀬尾さんは70代なんですね。今回お三方ともに共通して感じたのは、第一線で活躍されている方たちには、それ相応の理由があるということ。なんせ僕と2、3世代違うので、うまくコミュニケーションがとれるだろうか、最後まで辿り着けるだろうかと、けっこう不安だったんです。でも、いざ制作に入ってみると、みなさんしっかりと現代に適応されてました。ちょっと失礼な言い方になってしまいますが、そのへんのおじいちゃんとは全然違うんです。立ててるアンテナの感度も若い人と同じかそれ以上。なので、心配はすべて杞憂でした。

ーーそうなんですね!

清 竜人:僕とは比べものにならないキャリアがあり、なおかつ、そこに甘んずることなく、現代的な視点と技術力をも当たり前に手にしてる。そのバランス感覚が見事で、本当に勉強になりました。

ーーこの時代にお三方のお名前が並ぶのはレアですよね。

清 竜人:30代手前の男のシンガーを彼らが彩るという図式は狙ったところでもありましたが、やってみて、本当に何か新しいものが生まれる予感をひしひしと感じました。

ーー世代を越えた素晴らしいコラボレーション。

清 竜人:今回僕からのラブコールにみなさん快諾してくださいましたが、フツーに考えたら、お互いに大きなモチベーションがないとできないと思うんです。手前味噌かもしれませんが、彼らも僕に興味を持って、何かを託そうとしてくださったのかなと。さらに、今回スタッフも僕と同じようにモチベーションを保って、アポどりなどの裏方の仕事を頑張ってくれた。参加ミュージシャンの快演もあった。とにかく今回の1枚は、「新しいものを作り出す」という意気込みを持つことで実現することはある、といういいメッセージになったと思ってます。

ーーこれまでのさまざまなアプローチの源泉は、新しいものを作り出したいという強い思いにあるんですね。

清 竜人:20代の僕は、大げさな言い方をすると、0から1を作り出すこと、今日ないものを明日作り出すことが使命だと思っていました。1枚出して、また次は別のスタイルというのを続けてきたのは、作品を作ると、それは自分の中で過去のものになり、古く聞こえてしまうからなんです。でも、その自分の感覚の流れと、世の中の流れとには、厳然としたタイムラグがあった。そこをしっかりと擦り合わせられることがプロだと思うんですけど、20代の頃は自分のタイム感に意識がいきすぎて、それができませんでした。

ーーなるほど。

清 竜人:そこをちゃんと擦り合わせることで、もうワンランク上のプロになれるんじゃないかと今は思っているので、これからは、クリエイティブなものは継続させつつ、世の中の反応も俯瞰で見て活動していけたらなと思ってます。

ーーそれが、最初におっしゃってたJ-POPを見つめ直す作業でもあるわけですね。ヒップホップの流れをJ-POPにミックスしようとしている人たちがいる中、清さんは失われていたものの再発掘をしようとなさってる。ある意味真逆のアプローチですよね。

清 竜人:ムーブメントというのは、同じ職業とか同じカルチャーに携わる人たちが、同時多発的に同じような匂いを作り始めてできるものだと思ってるんですね。もちろんヒップホップという時代もありました。でも、僕はもうそれは古いと思ってるんです。何か世の中の流れがあるときに、それを否定して新しいものを作っていくというのが最先端の人間がやるべきことだと思っていますし。

ーーものづくりにおける覚悟、ですね。

清 竜人:僕の活動は美術史にたとえることができるんです。ルネサンスのあとバロック、ロココと徐々に装飾的、享楽的になっていくんですけど、そうすると今度は、それに対するアンチテーゼとして古典絵画の様式や精神を反映させようとする新古典主義が出てくるわけです。僕が今、J-POPで必要なのはそれじゃないかなと思っていて。

ーー納得です。

清 竜人:今回の作品がきっかけとなって、同じように思う人たちが同時多発的に現れて、時代の転換期が訪れるというのが理想ですね。そういう希望をこめて、僕は今の立場をとっているんです。

ーーなんかゾクゾクしてきました。ニューアルバムを楽しみにしています。年明けにはツアーもあるそうですね。

清 竜人:ソロを再始動してから、カラオケでハンドマイクで歌うライブをやってきてるんです。それって、J-POPのオーソドックスなスタイルでもあるかなと。弾き語りやバンドだと、それだけでカッコがつくからごまかしもきくけど、ハンドマイクではアーティストとしての一番大事なものを試される気がするんです。

ーーそのスタイルもまたアンチテーゼ。

清 竜人:そうですね(笑)。年明けのツアーでは、ピアノ弾きだけを入れてハンドマイクで回りますので、それもぜひ楽しみにしててください。

(取材・文=藤井美保)

■リリース情報
『目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子)』
発売:2018年11月14日
【初回限定盤】(MAXI+DVD) ¥4,000(税抜) / フォトブック付き
【通常盤】(MAXI) ¥926(税抜)

【初回限定盤 収録曲】
01. 目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子)
02. サン・フェルナンドまで連れていって
03. 涙雨サヨ・ナラ
04. 目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子) (カラオケ)
05. サン・フェルナンドまで連れていって(カラオケ)
06. 涙雨サヨ・ナラ(カラオケ)

【初回限定盤DVD 収録内容】
・目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子) MUSIC VIDEO
・サン・フェルナンドまで連れていって MUSIC VIDEO
・2018.8.26「清 竜人 歌謡祭」@東京キネマ倶楽部
01.「Love Letter」
02.「TIME OVER」
03.「抱きしめたって、近過ぎて」
04.「馬鹿真面目」
05.「私は私と浮気をするのよ」
06.「涙雨サヨ・ナラ」
07.「平成の男」
08.「目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子)」
24Pフォトブック付き

【通常盤CD 収録曲】
01. 目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子) 
02. サン・フェルナンドまで連れていって
03. 目が醒めるまで (Duet with 吉澤嘉代子) (カラオケ)
04. サン・フェルナンドまで連れていって(カラオケ)

■ライブ情報
『清 竜人 歌謡祭Vol.2』
日程:2018年12月23日(日)
会場:味園ユニバース
時間:開場 17:30 / 開演 18:15
出演者:清 竜人 /吉澤嘉代子

『清 竜人 東名阪アコースティックツアー 2019』
ピアニストをサポートメンバーに迎えての2人編成アコースティックライブ
2019年
1月19日(土)東京キネマ倶楽部 【開場/17:00 開演/18:00】
2月8日(金)名古屋 ボトムライン 【開場/18:30 開演/19:30】
2月9日(土)大阪 フラミンゴ・ジ・アルーシャ 【開場/17:00 開演/17:30】

『清 竜人 札福広ツアー 2019』
2018夏に東名阪で行われたツアーを札幌、福岡、広島でも開催。
清 竜人がマイク1本、一人でパフォーマンスするライブ。
2019年
2月17日(日)札幌 cube garden 【開場/16:30 開演/17:00】
3月2日(土)福岡 ROOMS 【開場/17:30 開演/18:00】
3月3日(日)広島 ヲルガン座 【開場/18:00 開演/18:30】

オフィシャルサイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる