キツネツキで菅原と滝が開いた“新たな引き出し” 『こんこん古今東西ツアー』最終公演を見て

キツネツキが開いた“新たな引き出し”

 後半はそのツインバイオリン編成で、「GOHONG-ZONE」を経て「ハイカラちゃん」「まなつのなみだ」「QB」と、『キツネのマド』のラスト3曲そのままの流れでエンディングを迎える。1分7秒のハードコアインストチューン「QB」では、オーディエンスがポップコーンのように跳びまくった。

 アンコールでは、滝はそのままバイオリン、ギターでtetoの山崎陸が加わって、「キツネツキのテーマ2」「ケダモノダモノ」「C.C.Odoshi」の3曲をプレイ。卓郎は「俺と滝の真剣な悪ふざけを理解してくれたみなさん」に感謝を述べ、「来年は9mmが15周年なんでこっち(キツネツキ)はあんまりやれないかもしれないけど、もしやったら、こういうのが好きな人は、来てくださいね」と述べる。やんわりした言い方に不釣り合いなほど、大きな拍手と歓声がクアトロを包んだ。

 そもそもアルカラの『ネコフェス2017 前夜祭』に出るために組んだだけのユニットであって、メジャーから音源を出すとかツアーまでやるとかは考えていなかった。と、卓郎も滝も言うのがこのキツネツキだが、でも音楽そのものを鑑みると、必ずしも「9mmのファンの中でもコアな人が集まって愛好する」というものではないんじゃないか? むしろ「9mm知らない」という人にもリーチするものじゃないか? という音源を最初に聴いた時に感じたことを、この日のステージに東出が加わっていたことで、改めて思い出した。

 フェスで初めてBIGMAMAに触れる人、BIGMAMAの曲を知らない人をつかむにはどうしたらいいかを考えた結果、「ロック×クラシック」をテーマにした『Roclassick』シリーズを始めた時のBIGMAMAと、「誰もが知っている童謡をハードコアにやる」という今のキツネツキのスタンスには近いものを感じる(卓郎にも滝にもそんなつもりは一切ないだろうが)。あと、曲が“インスト”と“歌もの”の両極に分かれることになっているのがキツネツキだが、そのオリジナルの“歌もの”も、童謡チックな歌詞を書くことによって、メロディもある種童謡っぽい、素朴でラインがくっきりしていて譜割りが大きい、一発で耳に残るようなものになっている。「かぞえうた」や「ハイカラちゃん」などを聴いていると、そのように、彼らのソングライティングにおいて、新しい引き出しが開きまくっているのを感じるのだ。

 「9mmにフラストレーションがあったからキツネツキを始めた」みたいなところはまったく感じないので、これを止めて9mmに戻ることに関して、ふたりとも何の抵抗もないだろう。結局2019年はキツネツキ一切やりませんでした、ということになる可能性も高い。が、キツネツキがあったから始まった、このソングライティングの新しい可能性を、このまま放置するのはもったいない。ちょっと9mmに持って帰ろうかな、くらいのことは考えてもいいと思う。

(写真=橋本塁)

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「SPICE」「DI:GA online」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「CREA」「KAMINOGE」などに寄稿中。

■セットリスト
『こんこん古今東西ツアー2018』
11月3日(土)東京・渋谷CLUB QUATTRO
<teto>
01. 高層ビルと人工衛星
02. 36.4
03. Pain Pain Pain
04. 市の商人たち
05. 洗脳教育
06. 暖かい都会から
07. 溶けた銃口
08. 忘れた

<キツネツキ>
01. キツネツキのテーマ
02. odoro odoro
03. ふたりはサイコ
04. てんぐです
05. 小ぎつね
06. 証城寺の狸囃子
07. ケダモノダモノ
08. ちいさい秋みつけた
09. かぞえうた
10. It and moment
11. GOHONG-ZONE
12. ハイカラちゃん
13. まなつのなみだ
14. QB
-ENCORE-
15. キツネツキのテーマ2
16. ケダモノダモノ
17. C.C.Odoshi

■関連リンク
キツネツキ オフィシャルサイト
キツネツキ レーベルサイト

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