柴 那典の新譜キュレーション
Joji、BTS RM、tofubeats……ユニークさや新しさを持った“異能”の歌を堪能できる6選
今回のキュレーションは、歌をキーにした6枚。どのアーティストも、それぞれ「異能」の持ち主だと思う。単に上手いとか下手とか、そういうレベルでは測れないタイプの歌。他の誰とも比べられない、ユニークさや新しさを持った歌。そういうものが感じられる作品を選んだ。
Joji『BALLADS 1』
昨年にリリースされたデビューEP『In Tongues』を聴いて衝撃を受けてからずっと追ってきたJojiの1stアルバム『BALLADS 1』。これが今年の個人的ベストに選びたいほどの美しさとインパクトを持った一枚だった。
ジャンルとしてはR&B、トリップホップということになるのだろうか。消え入りそうな繊細な歌声で、ゆっくりと、奈落に落ちていくようなダークでメランコリックな楽曲が多数収録されている。
孤独な心情を美メロに乗せて歌い上げる「SLOW DANCING IN THE DARK」、寂しげなピアノのフレーズとビートにひたる「YEAH RIGHT」。トリッピー・レッドをフィーチャリングに迎え若きラッパーの相次ぐ死に捧げた「R.I.P」。
Joji自身はシンガーソングライターで、アルバムはタイトル通りのバラード集なんだけれど、そのメロディや歌のエモーションの表現にはトラップ以降、さらに踏み込んで言うとエモやグランジの持つディプレッシブな美学を継承したトラップミュージックのセンスがありありと滲んでいる。夭折を遂げたXXXTentacionやJuice WRLDに近いものを感じる。
インドネシアのリッチ・ブライアンや中国のHigher Brothersなど、数々のアジアのアーティストをスターダムに押し上げてきた88rising所属。大阪出身のオーストラリア系日本人で、本名はジョージ・ミラー。
アルバムはビルボードのアルバムチャートで初登場2位を記録。R&B/ヒップホップチャートでは1位となった。今年はBTS (防弾少年団)の2枚のアルバム『LOVE YOURSELF 轉 'Tear'』『LOVE YOURSELF 結 'Answer'』が、アジア圏のアーティストとしては史上初となる全米1位を記録した年だったが、Jojiもそれと同じレベルの衝撃をアメリカの音楽シーンにもたらした「日本代表」のアーティストと言える。
僕はこれ、鳥肌が立つくらいすごいことだと思うのだけれど、このことの持つインパクトって、どれくらい日本のリスナーに伝わってるのだろうか?
1月には88risingのジャパンツアーも行われ、Jojiも出演する。絶対観たほうがいいと思う。
RM『mono.』
BTS(防弾少年団)のリーダー、RMが発表した『mono.』も素晴らしかった。7曲入りのミックステープ/プレイリスト。K-POPのアイドルグループであることを正面から引き受けているBTS(防弾少年団)に対して、こちらのソロは孤独の中でつむがれる心情がそのままラップ/歌の表現になっている。
特に1曲目「tokyo」と、HONNEがプロデュースした2曲目「seoul」がいい。
叙情的なダウンテンポのピアノに乗せて〈トルソーのような気分のまま、東京で目覚める〉とつぶやくように歌う「tokyo」。〈I love you so〉〈I hate you so〉と繰り返す「seoul」。
日本と韓国の首都をタイトルに冠した2つの曲は、どちらも「愛と憎しみは同じもの」というテーマが歌われている。今の彼が置かれている状況を考えても、引き裂かれるようなエモーションを感じる。
tofubeats『RUN』
tofubeatsは「DJ/トラックメーカー」という肩書きだけれど、4枚目のアルバム『RUN』はシンガーソングライターとして彼が“覚醒”した一枚だと思う。初めて誰もゲストを迎えず、一人で歌いきったアルバム。オートチューンやボイスチョップや様々なボイスエフェクトを用いつつ、決して生来的な「歌い手」ではない彼の声だけだからこそ表現できるエモーションがそこにある。
シングル曲の「RIVER」や「ふめつのこころ」、アルバムのリード曲になった「RUN」もいいけれど、僕が特に好きなのはアルバム中盤の「NEWTOWN」と「DEAD WAX」という2曲。
「NEWTOWN」は、ニュータウン生まれの彼のアイデンティティの核を音楽にしたような曲。ツーステップの洗練されたビートに載せて〈新しい街に住む/ふたりは出会った/目新しいものは/なんにも無い世界で〉と歌う。「DEAD WAX」は、レコードの溝の内周部分にある無音部分のことをタイトルに冠した1曲。〈音楽が終わってしまった/余韻だけがある/友達も帰ってしまった/自分だけがいる〉と、静かに歌う。
ものすごく研ぎ澄まされた孤独が歌われている。小西康陽の系譜に連なる詩人としての“冴え”を、僕は今作に感じる。
青葉市子『qp』
クラシックギターの柔らかな響きと神秘的な歌声で濃密な幻想世界を歌う異能のシンガーソングライター、青葉市子。
アルバム『0』(2013年)に収録された「いきのこり●ぼくら」の、死と生が隣り合った鳥肌が立つような描写を聴いてから僕はずっと惹かれ続けている。今年の8月にリリースされた“Sweet William と 青葉市子”名義のコラボ曲「からかひ」も素晴らしかったが、先日リリースされたアルバム『qp』も極上。
アルバムのモチーフは儚い美しさを持つオオミズアオなのだという。「いきのこり●ぼくら」と同じく、彼女が見た夢の情景が描かれた「月の丘」や、「妖精の手招き」、アルバムのラスト「海辺の葬列」など、静謐で純度の高い彼女の歌には、どこか“彼岸の向こう側”を思わせる世界が描かれている。
そこに惹かれる。