姫乃たまが東洋化成に潜入! カッティングエンジニアに聞く、アナログレコードへの思い

姫乃たま、東洋化成プレス工場へ

 これまであまり取材されたことがないという試聴室に連れて行ってもらいました。藤得さんは以前、試聴もされていたそうです。

試聴室に続く扉

藤得:中で女性スタッフが聴いていますね。この部屋はすごくいいカートリッジとかスピーカーを使っているわけじゃないんです。音質というよりも異常がないかをひたすら聴いて確認しています。

ーーわー、この仕事を藤得さんもされてたんですね。

藤得:僕、最初はプレスされたレコードを袋に詰めて、ジャケットに入れるアルバイトをしてたんですよ。

ーーわあ、それはすごく感動しそう!

藤得:そう! サンタさんになった気分です。僕もレコードを買って取り出した時、嬉しいから。レコードが傷ついてないか一枚一枚確認しながら、手作業でやってたんだって感動しました。

ーーそういえばカッティングルームで何を聴いてたんですか?

藤得:僕が高校生の時に初めて買ったレコードを……。今日何話そうかなと思いながら昨日家で聴き始めたら止まらなくなって朝までやってました(笑)。The Walker Brothersの『太陽はもう輝かない』は、神保町の(ディスク)ユニオンが細い路地にあった頃にジャケ買いしたんです。大人の人たちがレコードさくさく探してて、格好いいと思いました。『太陽はもう輝かない』ってタイトルもヤバいし、高校生の頃マッシュルームカットだったから、これ良さそうと思って(笑)。

社内にはレコードがたくさん!

ーーいまと真逆の髪型だ!

藤得:パンクとかモッズとかが好きで。いまの髪型は大学入った時くらいに小林旭さんがめちゃくちゃ好きで、床屋さんにジャケット持ってって「こういう髪型にしてください!」ってお願いしました(笑)。当時はこれまたアナログなんですけど、おじさんからもらったフィルムカメラをやっていて、大学の写真学科に通ってたんです。でもバンドとかやってて全然大学行ってなくて、中退しちゃったんですよ。出版社で編集の仕事をやったりもしたんですけど、もしかしたら写真じゃないかもしれない、と思い始めた頃にその会社との契約が満了して。

ーーそれで前から好きだったレコードの東洋化成に……!

藤得:いや、築地の市場で働きながら、専門学校にも通い始めたんです。レコードも好きなんですけど、オーディオ機器も好きだったので、スピーカーとかアンプを作りたいと思って、電子工学の専門学校に入学したら、みんなロボット工学とかやりたいから音響コースが全然人気がなくて。熱心に出席してるのはほとんど僕ひとりだったので、先生に色々教えてもらえて知識もつきました。趣味でオーディオ機器を作りながら秋葉原の電子部品屋さんでバイトして、お客さんと情報交換したり、貴重な体験でした。

ーーその頃を考えると、いま働いてるカッティングルームって本当に夢みたいですね。いままでカッティングして思い出深かったレコードはありますか?

藤得:そうですね。片面に50曲入ってて、両面で100曲、というジングル集をやったことがあって。先輩にも「100曲は初めて見た」って言われました。ちゃんと見ていないと溝が繋がっちゃうので緊張しました。あとは、最初に立会いさせてもらった時も嬉しかったです。東洋化成の営業の人がやってるバンドのレコードだったんですけど(笑)。

ーーすごい! 営業さんまでみんな本当にレコード好きな人たちが働いているんですね。

藤得:印刷の人もみんな音楽好きで聴いてたりやってたり、仕事ではあるけど、好きだからこそよりよくしようっていう意識がありますね。最近はレコードのオーダーが増えて、若い従業員も増えているし、中心で働いている50、60代の職人から技術も継承され始めています。「レコードの日」も年々タイトル数が増えているし、10月6、7、8日にレコードのイベントがあります。DJの方やレコード屋さんに声をかけて、活版印刷さんにも協力していただいて、遊びに来た人がその場でジャケットも印刷できるようなイベントになると思ってます。今は音楽性も変わってきて、昔はなかったようなデジタルの音楽も生まれてきているので、時代に合わせてレコードも新しいものを作っていかないといけない。まずはとにかくレコードの存在が広まったらいいな、と思っています。

 カッティングルームに戻っていく藤得さんと別れて、取材に付き添ってくれた営業部の社員さんたちにお礼をしました。1人はなんと今年、20年ぶりにレコード営業部に新卒として入社したという社員さんで、彼女は目を輝かせて「音楽が好きです」と話してくれました。

■姫乃たま(ひめの たま)
1993年2月12日、東京生まれ。16才よりフリーランスで始めた地下アイドル活動を経由して、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業を営んでいる。音楽ユニット・僕とジョルジュでは、作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』等々、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。
ウェブサイト
Twitter

■イベント情報
レコードの日
日程:11月3日(土・祝)
同日午前0時より、レコードの日参加アナログレコードを一斉に店頭、オンラインショップ等で販売開始。ネット販売、予約受注に関する制限無し。関連イベントも開催予定。
【主催】東洋化成株式会社
公式ホームページ

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