花澤香菜、出会いの連鎖で築いた表現者としての今 オリンパスホール八王子公演レポ

花澤香菜のライブに感じた表現者としての今

 猛暑続きだった今年の夏の余波がまだ収まりきらない9月上旬、『KANA HANAZAWA Concert 2018 ~大丈夫~』が開催された。このイベントは2月に新宿文化センターで行われた一夜限りのライブイベント『KANA HANAZAWA Concert 2018 “Spring will come soon”』のリバイバル公演で、2daysでの再演となった。当記事はオリンパスホール八王子で開催された9月8日のレポートである。

 3階席まである天井の高いホール会場で行われたこのライブは、彼女曰く「ゆるりと楽しめるコンサート」で、くつろぎながら聴くことのできる居心地の良い空間となっている。歌声や演奏を鑑賞するのには持って来いのロケーションだ。開演すると青い照明の中でボサノバ風の演奏が流される。演奏はすべて生演奏。自然と手拍子も起き、流れるように1曲目「夏のしおり」へ。暑い夏に別れを告げるような爽やかな雰囲気でライブがスタートした。

 1曲目が終わるとまずMCへ。途中、彼女がツアータイトルにちなんで「大丈夫?」と聞く場面があり、すかさず会場からは「大丈夫ー!」と大きな返事が返ってくる。彼女と客席にはすでに阿吽の呼吸ができあがっていた。次に披露したのは「happy endings」。歌声が柔らかく透き通っている。それを優しく支えるような熟練のバンドメンバーたち。次の「透明な女の子」では全体が少しテンポアップして軽快に歌う。そんななかでも歌詞のひとつひとつを大事に歌う様子が印象的で、曲をしっかりと届かせようという姿勢がこちらにも伝わってくる。

 そこから「初恋ノオト」へ。やはり抜けるような美しい歌声が直で耳までやってくる。決して声量があるわけではない。にもかかわらず、完全に歌詞が聴き取れるのだ。バンド演奏のボリュームのバランスもあるかもしれない。どの音もしっかりと目立っている。楽曲を鑑賞するという面に関して最大の配慮が為されているイベントなのだと思わされる。

 MCを挟んで「ざらざら」「夜は伸びる」を歌唱。アレンジが風街系で、郊外都市で開催された意味もなんとなく分かる気がする。しかもギターの佐橋佳幸とコーラスの3人は、なんと前日までの2日間、山下達郎のツアーで中野サンプラザでライブしてきたばかりだという。彼女の魅力と楽曲が活きる素晴らしい演奏だ。

 ここ数年、女性声優歌手のシーンはかつてないほど活況を見せている。山崎エリイや伊藤美来、安野希世乃や鈴木みのりといったここ1~2年でデビューした新人声優歌手たちの出す曲、出す曲が本当に名曲ばかり。人数が増えているだけでなく、しっかりと楽曲が作り込まれている。質の良いポップスがこのシーンからどんどんと生まれているのだ。

 そうした流れを作り上げたのが言うまでもなく花澤香菜である。2012年の歌手デビューから今年で6年目。4枚リリースしたフルアルバムは毎回音楽専門誌に熱く取り上げられ、批評家筋からも絶大な支持を得ている。言わば、楽曲派声優歌手のパイオニア的な存在なのである。

 そんな彼女にも昨年、転機が訪れた。新レーベル<SACRA MUSIC>への移籍だ。ここまで声優出身歌手として先陣を切ってきた彼女は古巣を離れ、また新しい世界へと飛び出していた。新しくプロデューサーに佐橋佳幸を迎え、いきものがかりの水野良樹が作詞/作曲を担当した12枚目のシングル『春に愛されるひとに わたしはなりたい』、槇原敬之が作詞/作曲を担当した13枚目のシングル『大丈夫』、と立て続けに斬新なタッグを組み作品を発表。移籍の直前には秦基博からも楽曲提供を受けている。アニソン業界内の作家陣と組み続ける声優歌手が多い中、こうした動きは珍しい。「女性声優歌手の代表的存在」は、「日本を代表する歌手」へと徐々に駒を進めているのだ。

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