星野源「アイデア」とBTS「IDOL」MV分析 両者が映像で表現した“ルーツ”と“アイデンティティー”

BTS「IDOL」

BTS (방탄소년단) 'IDOL' Official MV

 BTSの「IDOL」は、グループに対する他者からのレッテル貼りやそれに伴う偏見の眼差しに対する回答のような楽曲となっている。ただ歌って踊るだけでなく作詞に参加したり自ら振り付けを考えたりもする彼らは、「アイドル」という既存の型に当て嵌めた言葉を使って語られることで正当な評価を得られないというもどかしさを抱えてきた。この曲はそうした彼らにつきまとう批判を豪快に吹き飛ばすような楽曲だ。

〈You can call me artist/You can call me idol/아님 어떤 다른 뭐라 해도〉

〈I don’t care/I’m proud of it/난 자유롭네〉

(訳:アーティストでもいい アイドルでもいい 何だっていい 気にしない それを誇りに思ってる 俺は自由なんだ)

 絵に描かれた怪獣や大きなサメが襲ってくるなかでメンバーが意に介さず踊っている姿が印象的で、外からの圧力を自らの手で跳ね除けるようなパワーを感じ取れる。腰を落としながら挑発的にラップする表情や、何度も繰り返される〈You can’t stop me lovin’ myself〉(=お前は俺が俺自身を愛することを止められやしない)といった相手を突き放すような強いリリック、そして何とも形容し難いこの極彩色のサイケデリックな映像は、我々が潜在的に抱いているK-POPグループに対するイメージを鮮やかに打ち砕いてくれる。

 そしてその中でも、南アフリカ発のハウスミュージック”GQOM”と韓国の伝統音楽のリズムを融合させたようなサウンド面は「GQOM meets K-POP」とも称され、グローバルな感触を持ちながら自身のルーツである韓国の文化にも意識を注いでいることが分かる。単に奇抜なだけに見えるカラフルなコスチュームも韓国の伝統的な衣装をモチーフにしていたり、歌詞にも韓国の伝統音楽由来の言葉遣いが含まれているなど、一見してインパクト重視の滅茶苦茶な作品のようで、実は知れば知るほど作品に込められたテーマ性が明らかになっていくMVなのだ。

 白いトラや黄金色の舞台、中盤で登場しラストのダンスシーンで舞っている獅子などどれも韓国にまつわるものばかり。MVに散りばめられたこうした表現は、グループの活動がグローバル化していくなかで決して自国のファンを置き去りにしないという思いや、昔ながらのファンへの彼らなりの配慮のようにも受け取れる。ラストで夕日をバックに7人が椅子に座って画面越しにこちらを眺めるシーンがある。ファンであればその時、2014年の「Just One Day」のMVがフラッシュバックしこの数年間の彼らの成長を思うだろう。

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