コブクロ、二人で体現した“ONE TIMES ONE”の精神 さいたまスーパーアリーナに“希望の歌”響く

コブクロがSSAに響かせた“希望の歌”

黒田俊介

 ここからは、事前にもらったセットリストはまったくの空白になっていた。日替わりで観客のリクエストや、二人の気分で曲を選んでゆく、まさに路上ライブを思わせるフリーダムなリクエストタイムだ。黒田が長い花道の先端に乗り出し、はるか上方のスタンド席にリクエストを聞いている。「『流星』? よし、やろうか」。用意された譜面を前に、内緒話のようにパート分けの確認をする二人。普段はバンドメンバーが弾くイントロのギターを、久しぶりに弾く小渕がつまずいて「ほら間違った!」と奇声を上げた。素顔丸出しの一挙手一投足に、笑いと歓声が湧き上がる、なんとも微笑ましいシーン。

 小渕のリクエストによる「Bell」は、「YELL~エール~」の両A面だった懐かしい1曲。自分で決めておきながらサビの上ハモと下ハモのパート分けを忘れ、観客に聞いて確かめるという、まさかの展開も“路上ライブ”ならではの楽しさだ。もう1曲、観客リクエストによる「ANSWER」も実に懐かしい名曲で、二人の共作による歌詞を喉も裂けよと歌い上げる、黒田の気迫あふれる名唱に胸が震えた。満員の2万人の大合唱があとに続く。今日は二人だけのステージではない、およそ2万人による歌と心の共演だ。

 緊張感たっぷりに疾走するアッパーチューン「Ring」を歌い終えた小渕が、静かに語りだす。このツアーは黒田の提案だったこと。どこにでも歌いに行った、あの頃を思い出すこと。そして、この歌こそが自分たちの原点であること。そう前置きして歌った「桜」は、これまでのどの桜よりも色鮮やかに、生きている大木としての目の前にそびえていた。何千回聴いても、いい歌はやはりいい歌だと、当たり前のことをしみじみ思う。続けて「風」「ここにしか咲かない花」を歌う二人の背景に、美しい夜明けの海の映像が浮かび上がる。花をテーマにした3曲を続けて歌い、たとえゴミ箱の横にでもけなげに咲く花を見ると、路上で歌っていたあの頃の感覚を思い出すと小渕は言う。あの感覚を掘り起こし、もう一度未来へ向かう力に変えること。単なる懐古ではない二人だけのツアーの意図は、観客にもしっかりと伝わっているはずだ。

 中盤のじっくり聴かせるムードから一転、黒田が仕掛けた盗撮動画“トイレで発声練習する小渕”の大ネタで爆笑を誘うと、ライブは一気に後半へ。「日頃のストレス、全部ここに置いていけばいいでしょうが!」と小渕が煽る。曲は「潮騒ドライブ」「Moon Light Party!」、そして「轍-わだち‐」。再びトロッコが登場し、360度の観客に向けたアップテンポの曲の連発に、観客は一人残らずお祭り騒ぎだ。

「1×1は1ではなくて、無限大なんだと思います。山あり谷ありの人生のステージ、みなさんの夢がかなうことを願って歌います」

 本編ラストを飾ったのはやはりこの曲、最新シングルになった「ONE TIMES ONE」だ。本人たち曰く「1×1=無限大」を意味している。答えは1ではない、人と人との出会いによって可能性は無限大に開ける。強いメッセージのこもった楽曲を、行進曲のようなリズムに乗せ、陽気なカズーの音色を響かせ、パワフルに歌い上げる二人。ラストのフレーズはマイクを口から離し、朗々たる生声がスーパーアリーナ全体に反響した。それはまさに路上を思わせる、アンプを通さず聴こえる生々しい人間の声だった。

 「朝まで僕らと一緒に、歌ってくれませんか」。おなじみのフレーズを歌い続ける観客の声に呼び戻され、ツアーTシャツに着替えた二人がステージに戻ってきた。この日のアンコールは2曲、日替わりメニューの「WHITE DAYS」に続き、ラストを飾ったのはシングル「ONE TIMES ONE」のカップリング曲「バトン」だった。命のバトンをテーマにしたこの歌は、この日の締めくくるのに最適の曲だった。

 およそ3時間半のセットリストをすべて歌い終えた二人が、深々とお辞儀をする。鳴りやまない拍手と歓声が、観客の満足度を物語る。そして最後の言葉……「また、ライブで会いましょう!」。その言葉を胸にそれぞれが日常へと戻り、再び会える日を指折り数えて待つ。その日まで力強く生きよう。コブクロの歌はいつでも、どの曲も、明日を生きてゆく希望の歌だ。

(文=宮本英夫)

コブクロ オフィシャルサイト

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