シングル『言えない事は歌の中』インタビュー
藤田恵名が語る、『言えない事は歌の中』で大切にしたこと「かっこよさを突き詰めた」
今いちばん“脱げる”シンガーソングライター、というキャッチコピーで登場。水着姿でライブをし、またグラビアアイドルとしてバラエティ番組への出演や女優としても活動する、藤田恵名。昨年夏にリリースしたアルバム『強めの心臓』では、ヌードでの“脱衣盤”ジャケット(着衣盤もあり)も話題となって、様々なメディアで取り上げられたが、インパクト抜群のジャケのみならず、その歌も歯に衣着せぬアグレッシブさで、グラビアの裏側から腹の底にある思いをノイジーなギターに乗せぶちかました。そこには、水着一丁で、挑戦的、挑発的に自らを音楽と言葉で武装して戦っていく姿が映っていた。
約1年ぶりとなるニューシングルの表題曲「言えない事は歌の中」は、改めて藤田恵名の、強く凛とした姿勢を示す曲となった。ライブサウンド的なざらつきや呼吸感のあるバンドサウンドで、思い切りギターをかき鳴らして、自分自身の心、弱さに立ち向かうように声をあげる。音楽という、自分にとって大事なもの、譲れないものを、ピュアで美しいまま守りたいと、鼓舞するコブシが音と歌になっている。普段の語り口は、とてもソフトな藤田だが、ミュージシャンとしての藤田恵名はとてつもなく強気で逞しい。その背景と、今作について話を聞いた。(吉羽さおり)
かっこいい女性になりたい
ーーニューシングル「言えない事は歌の中」、これはどういう思いで書いた曲なんでしょう。
藤田恵名(以下、藤田):今までミニアルバム、フルアルバムをリリースしてきた後のシングルなので、この一曲で評価されると考えると、プレッシャーもあって。歌詞を書くのは、すごく葛藤しましたね。最初に書いていたものから書き換えることが、何回かありました。でも、抽象的なことと具合的なこととのバランスを考えながら、自分の腑に落ちるところに持っていけましたね。あとは、アップテンポの曲なので、ライブで歌っていることを想像しながら書きました。
ーー何度か歌詞を書き直しているというのは、言いたいことは変わらずで、言葉のチョイスや言い方を変えているような感じですか。
藤田:そうですね。でも、もっと攻撃的なことを言ってました(笑)。前回のアルバム『強めの心臓』で、キングレコードさんが歌詞でレコード倫理協会と戦ってくださった話をちらっと耳にしたので。これはちょっと、わたしも大人にならなきゃなと思って(笑)。メジャーからリリースするって、そういうことなのかなって思いつつ。言いたいことの根本は変えないまま、ちょっとなるべく敵を作らない歌詞を書きました。
ーー(笑)。でも、反骨心のある藤田さんとしては、そのギリギリを攻めたいところですよね?
藤田:はい、ギリギリを攻めたかったです。それで、今の形に落ち着いた感じですね。
ーー歌詞に〈色の足りない世界で 身代わりの歌ばかり歌っている〉という表現がありますね。これは、どういう思いで綴ったものなんでしょう。
藤田:例えば、ビジュアルだけが先行しちゃったりするなかで、人質みたいに、わたしは歌を差し出せるみたいなことですね。「これが目に入らぬか」っていう気持ちで。きっと、『強めの心臓』や今回のようなジャケットって、音楽をずっとやっている人や真面目に音楽をやっている人からしたら、どうなのって思われるというか、同業者受けは悪いという自覚はあるので。でもわたしは、ちゃんと歌を歌ってるというのと、それしかできない、それしかやってこなかったという思いだったんです。
ーー前回のアルバムの時も、みんなに好かれなくてもいいんだっていう話をしていたんですよね。
藤田:その思いはずっと変わらないので。みんなに共感してもらえなくても、表題曲もカップリングの曲も、結局自分のこと……自分をなぐさめたり、自分の背中を後押しできる曲を歌っているので。これを聴いた何人かが「わかるわぁ」とか共感してもらえるところやフレーズがあればいいなという感じですね。
ーー戦いながらも、この人は頑張っているんだなと。
藤田:はい(笑)。
ーー〈運命に動じちゃいけない〉と強く歌われますが、普段、逃げたくなったり、負の連鎖に陥ってしまうようなこともあるんですか。
藤田:あるけれども、運命に動じちゃいけない、ここで逃げたら終わりだっていう気持ちがいつもあるんです。もちろん、仕事でイヤなことや、うまくいかないことがあって、わーってなったり。もっとこうできたのになと思っても、それも今の自分の力量だと思うんですよね。そこであがいても、今はそれでしかないって言い聞かせるっていうか。でも、負の連鎖に陥ることは、10カ月前に比べたらなくなったかなって。今はそれこそも、ライブとかの活力になるっていうか。いろんなモヤモヤした気持ちとか、心ないコメントを目にしたときに、「この野郎!」っていう思いで曲が書けたり、ライブに持ち込めたりするので。それはそれで、自分が見つけられたサイクルで。悪循環になることは減りました(笑)。
ーーいろんな意見や評価を汲んで、もう一回自分に火をつけるということなんですね。
藤田:不思議なことに、それがエンジンになっているんです。なんかこう、いつからか負の感情が歌を作る源になっていると気づいて。段々とハッピー、キラキラ〜みたいな曲じゃなくなってきたからこそ、できるんだろうなって思います。
ーーその反骨心が藤田さん自身の表現に繋がる、根っこなんでしょうね。「言えない事は歌の中」は、これまで通り田渕ガー子さんの編曲で、アグレッシブなロックチューンとなりましたが、藤田さん自身のアレンジのイメージはありましたか。
藤田:エッジが効いたもので、でも電子音はあまり入れたくないというのがありました。ライブで生音で歌うことを前提として曲を作っていたので。あまり、キラキラとしたような音ーー入れようと思えば、曲に合うような音はあったと思うんですけども、バンドの生音でがっつりやりたいなっていうのはありましたね。アレンジについては、ガー子さんが言わずともわかってくれるので。アレンジがあがったときに、もっとここはこうしてほしいですというのは言ったんですけど、結構思いのままに編曲していただきました。
ーーそれはもともと曲が持つ力としても、生音でガツンとした音が必要だったというところですか。
藤田:そうですね。かわいい歌を女の子が歌うことって、多分、見慣れているというか。一般的にも、かわいい曲をかわいく歌うって、難しくはないと思うんですけど。女がかっこよく振る舞うって、結構難しいと思っていて。わたしも最近、「かっこいい」と言われることに快感を覚えているので。どうやったらかっこよくなるかーーそれが、音なのか歌詞なのか振る舞いなのか、模索しているんです。かっこよさを突き詰めたらこうなった、という感じですね。
ーーもともとは、この曲のようなかっこいい、激しい歌を歌っていたわけではなかったですよね。そこから、今藤田さんが表現する、かっこよさや、強さといった、武装しているようなイメージは、どこらへんから芽生えたものなんでしょう。
藤田:なめられたくないって思うようになったんですよね。例えば、親が亡くなってすぐくらいに、「僕の事務所にきなよ」って言われて、入りかけた事務所がすごいブラックだったとか。思っていたことと違ったことが起こるときって、だいたい、わたしなめられてたんだっていう悔しさで、反省するんです。もっと、自分がしっかりして、誰も寄り付かないような人間だったら、なめられたり、誘惑もなかっただろうにって思ったこともあったので。それを考えたら、性格を変えるのは無理だけど、アウトプットとかライブの様とかで、「わたしはこういう人間なんだ!」っていうのをもっと発信していきたくなったんです。年齢を重ねていくうちに、自分がかつて歌えていた曲と気持ちが合致しなくなってきていたのもあって。その時期とかに、ナンバーガールとか、昔から知っていたはずだったけど椎名林檎さんとかの初期の感じを見て、改めて圧倒的だなって思うようになって。そういう、かっこいい女性になりたいって思うようになったんです。なめられたくないという気持ちから、芽生えたものなんだろうなと思いますね。
ーーそういう強さをアウトプットしながら、段々と自分の心もついていった感じですかね。
藤田:そうですね。
ーー歌は偉大ですね。
藤田:偉大です。歌う曲で、こんなに考え方が変わっていけるんだって思って。自分で作ったにもかかわらず、すごくありがとうっていう気持ちになりますね。