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栗本斉の「温故知新 聴き倒しの旅」第12回

小西康陽の語り尽くせない作家性 『素晴らしいアイデア』を聴いて

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 ピチカート・ファイヴ「東京は夜の七時」、慎吾ママ「慎吾ママのおはロック」、深田恭子「キミノヒトミニコイシテル」、Negicco「アイドルばかり聴かないで」、そして、新しい地図「72」。小西康陽という名前を知らなくても、これらの楽曲はそれなりに浸透しているといえるのではないだろうか。けっして大ヒットメーカーでもないし、プロデューサーとして大物を育て上げたわけでもない。しかし、彼が関わる楽曲はどこか記憶に残るものが多いし、音楽マニアを唸らせる仕掛けが隠されている。

 先日、『素晴らしいアイデア 小西康陽の仕事 1986-2018』が発売された。これは、小西がこれまでに作詞、作曲、編曲などで関わった楽曲の中から90曲を厳選し、CD5枚に収めた作品集だ。いかに30余年に渡ってこれほどまでに質が高く、バラエティに富んだ音楽を作り続けてきたのかがよくわかるボックスセットである。ここには彼が中心メンバーとして関わってきたピチカート・ファイヴの音源は含まれていないし、もちろん収めきれなかった作品も多数ある。そういった音源も含めて考えると、小西康陽という音楽家の溢れ出るような才能が伝わるだろう。

 残された楽曲群を聴いていると、どうしてもアッパーなサウンドに耳が行きがちだ。先述のヒット曲もそうだが、ピチカート・ファイヴのブレイクとともにソングライターとしての需要が一気に伸びたこともあって、いわゆるクラブミュージック的なアプローチは十八番。福富幸宏にアレンジを任せた細川ふみえ「スキスキスー」や、小西がアレンジのみを担当した電気グルーヴ「生ゴミ OH2」などに始まり、吉村由美「V・A・C・A・T・I・O・N」、篠原ともえ「メトロの娘」、Chappie「The International Chappie’s Cheer-leading Team」あたりは、まさにダンスミュージッククリエイターとしての小西を象徴するサウンドと言える。これら以外にも膨大なリミックスを残しており、DJユース的音作りが得意な人という印象が強いという方も多いはずだ。

 しかし、サウンドクリエイターやリミキサーとしての彼のクオリティはもちろん申し分ないとはいえ、この作品集できっちりと確かめておきたいのは、ソングライターとしての小西の素晴らしさである。いや、むしろ、作詞家及び作曲家としての小西にこそ、彼の音楽家として本質があるといってもいい。

 そもそも彼は、バート・バカラック&ハル・デヴィッド、ジェリー・ゴフィン&キャロル・キング、そして松本隆&筒美京平といったいわゆる職業作家たちに憧れ、デモテープ制作集団としてピチカート・ファイヴを結成している。1985年にピチカート・ファイヴはデビューするが、アルバム『couples』(1987年)や『Bellissima!』(1988年)といった初期の傑作群を聴けば、いかに先達の作家たちに憧れ、追いつこうと努力していたのかが手に取るようにわかる。

 そして、こういった資質が認められて、他のアーティストへの楽曲提供が増え、ソングライターとしての才能を開花させていく。とりわけ、作詞、作曲、編曲のすべてを手がけた松本伊代「有給休暇」や岩本千春「キス」、中山忍「涙のピチカート」あたりは、完全に小西節といってもいいほど、彼にしか作れない独自の世界に仕上がっている。そして、言い換えるなら、ボーカリストが誰であろうと、ピチカート・ファイヴで目指していたものとまったく同じなのだ。作詞だけを手がけた南佳孝「Taste Of Honey」や谷村有美「ポストカード」といった作品でもこの感覚は貫いており、どこか内省的でメランコリックな味わいは、ダンスミュージッククリエイターとしての小西とは一線を画している。

 この作家体質はずっと途切れることなく続いており、吉岡忍「素晴らしいアイデア」、SMOOTH ACE「これから逢いに行くよ。」、MEG「夏が終わる」などの楽曲を年代を追って聴き進めていくと一貫して感じられるはずだ。なかでも、2015年発表という比較的直近である星野みちる「夏なんだし」は特筆すべき一曲といえる。はっぴいえんどへのオマージュということで話題になったが、実はピチカート・ファイヴの手法となんら変わっていないし、言葉遊び風の歌詞や独特のメロディラインに隠された寂寞感やメランコリアの表出方法は、さらにブラッシュアップされているという印象だ。小西康陽というソングライターはずっと進化し続けているのである。

 他にも、初期のYOUNG ODEON名義や種ともこ「ブルーライト・ヨコハマ」のような実験的な世界観、夏木マリ、ムッシュかまやつ、和田アキ子、八代亜紀などのベテランに新たな魅力を見出したプロデュース能力、ユニコーンから吉幾三までを自身の作品に転化してしまう強烈なリミックスなど、小西の仕事ぶりについてはここでは語り尽くせない。しかし、ソングライターとしての彼の資質こそ原点なのだ。そして、今の音楽シーンでは稀有な本物の作家性を感じさせるクリエイターであることが、この『素晴らしいアイデア 小西康陽の仕事 1986-2018』を聴けば浮かび上がってくるのである。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。
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