アルカラと『ドラゴンボール超』なぜ好相性? タイアップで“らしさ”を発揮できた理由

アルカラと『ドラゴンボール超』の好相性

「タイアップ」とは、その名や音を広めてくれる手段であると同時に、真面目に取り組めば取り組むほど、バランスを取ることが難しいクリエイションだと思う。特に、ストーリーやアイデンティティを大切にしているロックバンドにとっては、慎重に取り組まざるを得ないところがあるだろう。自分たちを曲げないままで、タイアップする作品にマッチする楽曲を作らなければいけないのだから。そこで大切になってくるのは、どんなタイアップでも揺るがない自分たちらしさを持っているというところと、その作品に対して理解があるというところだろう。そういう意味で、アルカラのニューシングル『炒飯MUSIC』と、表題曲がエンディングテーマとなっている『ドラゴンボール超』(フジテレビ系)は、近年のタイアップの中でもトッププラスの好相性といえると思う。

 タイアップの中でも、アニメのタイアップというと、特に難しい。何故なら、ロックバンドにはロックバンドのコアなファンがいて、それとは別にアニメにはアニメのコアなファンがいるから。しかも、長い歴史を持ち、日本国民のみならず世界中の人々が絶対的なイメージを持っている名作『ドラゴンボール』の最新版のアニメのタイアップである。ハードルは高い。しかしアルカラは、自分たちの武器と、『ドラゴンボール』愛によって、高々とハードルを越えてしまった。

 まず「炒飯MUSIC」という引っ掛かる曲名が粋である。これまで、“炒飯”を曲名に掲げ、それを作り食す歌詞を歌ったロックバンドがいただろうか?……もしかしたら、いたかもしれないが、“炒飯”をこんなにロックに表現できるロックバンドは数少ないだろう。元々「ロック界の奇行師」を名乗り、エキセントリックな個性を持つ彼らだからこそ、鳴らし、歌うことが出来たと言える。そしてこの“炒飯”というテーマは、言わずもがな、『ドラゴンボール超』への書き下ろしだからこそ生まれ得たもの。彼らと世代が近い筆者は、よく覚えている。初期の『ドラゴンボール』で、悟空が無邪気に大食いをしていたことを。勢いに満ちた「炒飯MUSIC」を聴いていると、あの、ご飯ツブをまき散らしながら喜々としてご飯をかっ込んでいた悟空が目に浮かぶ。戦闘や冒険ではない、だけど紛れもなく『ドラゴンボール』らしいシーンを切り取れたのは、『ドラゴンボール』世代の彼らならではなろう。

 また、アレンジにも、細かい『ドラゴンボール』愛が生きている。過去の『ドラゴンボール』のオープニングテーマ、エンディングテーマで使われていた、逆再生や銅鑼の音、そして歌詞などのオマージュが取り入れられ、それらを知っている人が聴けば「はっ!」とする仕上がりになっているのだ。思えば、『ドラゴンボール』で使われていた楽曲は、今でも耳に残っているものが多い。「摩訶不思議アドベンチャー」、「CHA-LA HED-CHA-LA」、「でてこいとびきりZENKAIパワー!」……語感のキャッチーさや物語との親和性、そしてそんな表面的なインパクトの奥にあった、確固たる歌唱力や演奏力、アレンジセンスなどが影響していると思うのだが、今回のオマージュからは、そういった過去の名曲に対するリスペクトが感じられる。アニメでしょ、子ども向けでしょ、などと『ドラゴンボール』のタイアップを軽く見ていない姿勢は、子どもを持つ筆者としてはとても嬉しく思える。

 いい意味で子ども向けに感じられるところを挙げると、擬音語や擬態語など、子どもが覚えやすい言葉がふんだんに取り入れられているところ。〈你好(ニーハオ) 5(ウー) 6(リュー) 7(チー) 8(パー)〉といった語感が気持ちいい中国語を取り入れているところは、子どもが外国語に興味を持つキッカケにもなるかも!? それでいて〈暴れ出せリビドー 右手にはレンゲ 止め刺してやれー〉などといったところには、『ドラゴンボール』らしさやユーモアの中に、しっかりアルカラらしい攻撃性も刻み込んでいる。

 なお、『炒飯MUSIC』は表題曲以外にも、全ての収録曲にタイアップが付いている。「怪盗ミラクル少年ボーイ2」は、アニメ『怪盗ジョーカー シーズン 3&4』(TOKYO MX/キッズステーション/BS11)のオープニングテーマ。『LET・IT・DIE』はPS4「LET IT DIE」公式参加ソング。加えて、この3曲のカラオケが入った全6曲が収録されている。「怪盗ミラクル少年ボーイ2」は、〈フフフー〉というコーラスがライブでも盛り上がりに火を点けそうな、キャッチーかつアッパーなナンバー。「LET・IT・DIE」は、緩急が付いたリズムで、しんみりしそうなメロディなのにしんみりさせないジェットコースター・ソング。どれも、タイアップを意識したドラマ性がありながら、紛れもなく彼らにしか生み出せない個性的な楽曲だ。

 ともすれば、“らしさ”を消しかねないタイアップ。しかし、今作を聴いていると、むしろタイアップが“らしさ”を引き出すこともあるのだと思える。タイアップというより、コラボレーションといった方がしっくりくる、互いの個性と愛の結晶。これからも、そんなタイアップがどんどん現れることを願うと共に、その可能性に改めて気付かせてくれたアルカラの今後にますます期待していきたい。

■高橋美穂
仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

■リリース情報
『炒飯MUSIC』
発売:2016年11月23日
・初回限定版 ¥1800(税抜)
※初回版はDVDネコフェス2016の模様が収録
初回限定盤DVD
ネコフェス2016 -KUDAKENEKO ROCK FESTIVAL 2016-
What’s ネコフェス2016

・通常盤 ¥1200(税抜)

〈収録曲〉
01.炒飯MUSIC(フジテレビ系TVアニメ「ドラゴンボール超」ED曲)
02.怪盗ミラクル少年ボーイ2(アニメ「怪盗ジョーカー シーズン3&4」OP曲)
03.LET・IT・DIE(PS4『LET IT DIE』公式参加ソング)
04.炒飯MUSIC カラオケ
05.怪盗ミラクル少年ボーイ2 カラオケ
06.LET・IT・DIE カラオケ

■ライブ情報
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜始まりはXから〜』
11月28日(月) 渋谷 WWW X(ワンマン)
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜半径9mmの中で〜』
11月30日(水) 名古屋 APOLLO BASE
w) 菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜奈良から刺客は、ここに〜 』
12月2日(金) 名古屋 HUCK FINN
w) LOSTAGE
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜日本カタカナ普及委員会〜』
12月4日(日) 名古屋 CLUB ROCK'N' ROLL
w) ヒトリエ
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜月曜日はクアトロにて 第1話〜』
12月5日(月) 名古屋 CLUB QUATTRO(ワンマン)
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜ラッシャーかバカボンか〜 』
12月8日(木) 大阪 KINGCOBRA
w) UNCHAIN
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜今宵、男たちは冬祭り〜』
12月9日(金) 大阪 十三ファンダンゴ
w) クリトリック・リス
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜月曜日はクアトロにて 第2話〜 』
12月12日(月) 梅田 CLUB QUATTRO(ワンマン)
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」 〜ネコフェス4.5周年!「ネコへス」〜 』
12月13日(火) 心斎橋 Music Club JANUS
w) chaqq / folca / 大石昌良
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜喰らえ!ニーク!ニクキュー!〜 』
12月15日(木) 下北沢 CLUB251
w) POLYSICS
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜さらばPOINT-UP、そして伝説へ〜 』
12月16日(金) 新宿 ACB
w) SHACHI / POINT-UP
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」〜ことりことりことり〜 』
12月18日(日) 下北沢 SHELTER
w) tricot
『アルカラ「こ・れ・で・も・か!!TOUR 2016 -東名阪-」』
12月19日(月) 渋谷 CLUB QUATTRO(ワンマンライブ)
※他ライブは下記HPまで

■オフィシャルHP
http://arukara.net/

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