K-HIPHOPが今世界市場で注目される背景は? Jay Parkと2 Chainzコラボまでの歴史を追う

 年が明けて2015年元日。この日YouTubeに公開されたKeith Apeの「It G Ma」は、国外のリスナーが抱いてきた韓国ヒップホップのイメージをいい意味でくつがえした。それまでPSY、Dynamic Duo、『SHOW ME THE MONEY』などが見せてきたものは、大企業によって作られた大衆芸能のイメージが少なからずあった。しかし「It G Ma」は、アンダーグラウンドのラッパーたちが友人同士で声を掛け合って制作し、無料公開したトラックだ。そして何より、そのディープなサウストラップとドープなフロウに驚きを隠せなかったアメリカの音楽関係者たちは、競い合うようにこの曲を拡散。瞬く間に巨大なバズが起こったのである。

 これをきっかけに母国を離れてアメリカに活動拠点を移したKeith Apeは、現地の大手メディア「COMPLEX」を通して、A$AP Ferg(エイサップ・ファーグ)やWaka Flocka Flame(ワカ・フロッカ・フレイム)らが参加した「It G Ma」のリミックスを公開した。以降もアメリカのみならず、諸外国のアーティストたちと頻繁にコラボしながら世界を舞台に活躍し続けている。


 「It G Ma」以降、韓国のヒップホップシーンは世界中に広がるK-POPファンだけでなく、各国の音楽メディアやアーティスト、ヒップホップファンからも大きく注目されるようになっていった。

 そのタイミングで登場したのがDEAN(ディーン)だ。元々K-POPグループEXO(エクソ)などのソングライターをしていた彼は、興味深いことに、韓国ではなくアメリカで先にシンガーとしてのキャリアをスタートさせたのだ。Eric Bellinger(エリック・ベリンジャー)とのデュエット「I'm Not Sorry」で2015年にデビューし、間もなくAnderson .Paak(アンダーソン・パーク)をフィーチャーした「Put My Hands On」を発表。アジアの若き天才アーティストとして脚光を浴びた。

Dean - Put My Hands On You ft. Anderson .Paak

 DEANは韓国の音楽シーンの流れを変えるゲームチェンジャーとなった。フューチャービートを流行させ、新鋭クリエーターたちが集結する次世代クルーが多く生まれるトレンドを作ったのだ。また、それまでの韓国語ラップは発音の良さ、ライミングやフロウのうまさなどが重要視されてきたが、DEANやその周辺の新鋭アーティストたちの影響によってシンギング・ラップが台頭していき、2017年には大幅な世代交代が行われた。DEANは2017年以降もアメリカのR&BバンドであるThe InternetのボーカリストSyd、そしてイギリスのバンドPREPとコラボを果たしている。

 こうして韓国とアメリカのヒップホップシーンの交流はますます深まっていった。韓国で最も成功したラッパーに挙げられるDok2(ドッキ)やThe Quiett(ザ・クワイエット)は、その方面でも精力的だ。昔から国外のアーティストと積極的に作業してきた彼らは、ここ2~3年の間もDJ Mustard(DJマスタード)、Pete Rock(ピート・ロック)、Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)などのビッグネームと次々にトラックを発表。ワールドツアーも頻繁に開催するなど、国内外を問わず目覚ましい活躍を見せている。

 『SHOW ME THE MONEY』の優勝経験者でもあるBewhY(ビーワイ)もまた同様だ。同番組での優勝後、彼はTalib Kweli(タリブ・クウェリ)とのコラボ曲「International Wave」を発表。さらには戦友C Jamm(シージャム)と共にA$AP TyY(エイサップ・タイ)のトラック「Like Me」にもフィーチャリングした。BewhYのタイトで歯切れの良いフロウは、全くカラーの違うこの2つのトラックどちらにもよく調和しており、そのスキルの高さに思わず唸ってしまう。彼はその後、インディペンデント・アーティストとしては異例の全米ツアーも敢行した。

A$AP TyY - Like Me Ft. BeWhy & Cjamm (Official Video)

 以上のような流れの中で、じっくりと着実に世界市場に向けて大きな力をつけていったのが、まさにJay Parkその人である。元アイドルならではのパフォーマンス・スキルと、幼い頃からB-Boyとして培ってきたヒップホップ・ソウル。その両面を武器に、プロの世界で10年かけて才能を磨き上げていった。英語を母国語とし、ビジネスマインドまで兼ね揃えている。そんな彼がアメリカにまで活躍の舞台を広げることとなったのは、必然の結果であったと言えよう。

 5月29日、『Soju』のリリースに続く驚きのニュースが飛び込んできた。BTSが米ビルボード・アルバムチャートで1位を獲得したのだ。これはK-POP史上初の快挙だという。韓国勢の勢いはもう誰にも止められない。

■鳥居咲子
韓国ヒップホップ・キュレーター。ライブ主催、記事執筆、メディア出演、楽曲リリースのコーディネートなど韓国ヒップホップにおいて多方面に活躍中。著書に『ヒップホップコリア』。運営サイト「BLOOMINT MUSIC」 / Twitter

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