まもなく40周年!サザンオールスターズは常にトップを走り続ける シーン変遷から読む“グループ力”

サザン、40年の歩みとシーンの変遷

 昨年の桑田佳祐ソロの活発なアクションに引き続き、いよいよサザンオールスターズ周辺の機運が高まってきた。4月からスタートしたサザンオールスターズと三ツ矢サイダーのコラボレーション「三ツ矢andサザン2018」。音楽と飲料、それぞれのジャンルにおける「ロングセラー」の代表格がタッグを組んだ、王道感溢れるコラボである(ちなみに三ツ矢サイダーは、サザンにとっては初めてCMに出演したブランドで、バンドとしても非常に縁が深い)。昨夏には本人たちが出演したCMに書き下ろし曲「弥蜜塌菜のしらべ」が使用されて話題となったが、4月からその新展開として彼らの名曲から選ばれた4曲が立て続けにCMソングとして使われている。

 シリーズ第1弾CMにて使用されたのが、「日本語をポップミュージックとしていかに歌いこなすか」という日本の歌謡史における重要な問いに対する画期的な発明であり、今でも「お祭り騒ぎ」の代名詞的な存在でもある、サザンのデビュー曲「勝手にシンドバッド」(発表は1978年)。このCMでは男子学生2人が音程のずれも気にせず熱唱しており、この曲がいつの時代にもテンションの高鳴りを表現する楽曲として機能することを証明している。

 現在オンエア中の第2弾で使用されているのが、1988年に発表された「みんなのうた」。今年の3月に惜しまれながらも終了したバラエティ番組『めちゃ×2イケてるッ!』の最終回でもフィーチャーされたことも記憶に新しい、今なお輝きを放ち続けているこの曲が使われているCMでは、登場人物の少年時代と大人になった現在がクロスオーバーする映像と、リリースから30年経った今でもタイトル通りに様々な場(フェスのDJブースなどで耳にすることもある)で多くの世代をひとつにするこの楽曲のパワーがうまくリンクしている。

 これ以降も、固有名詞を盛り込んだ歌詞が印象深いロマンチックな「LOVE AFFAIR~秘密のデート」(1998年)、ニューウェーブテイストの無機質なサウンドとウェットなメロディやコーラスワークのギャップが気持ちよい「I AM YOUR SINGER」(2008年)を使用したCMが続いていく予定である。

「三ツ矢andサザン2018『まっすぐな青春編』勝手にシンドバッド(1978年) 」30秒
「三ツ矢andサザン2018『まぶしすぎる記憶編』みんなのうた(1988年) 」30秒
「三ツ矢andサザン2018『焦がした心編』LOVE AFFAIR~秘密のデート(1998年)」30秒

 いずれも、陳腐な表現ではあるが「今聴いても色あせない名曲」であり、このバンドがその時々の時代の空気を楽曲に織り込みながらも長く聴き続けられる音楽を作ってきたということがよくわかる。

 今年の6月25日にデビュー40周年を迎えるサザン。当然のことではあるが、この間に音楽業界のあり方も様変わりした。それは、今回CMで使用される楽曲が発表された各年の音楽シーンの動向を見るだけでよくわかる。

 ピンクレディー「サウスポー」「モンスター」が人気を博した1978年。光GENJIが「パラダイス銀河」「Diamondハリケーン」などをリリースし話題をさらった1988年。GLAY「誘惑」、SMAP「夜空ノムコウ」、SPEED 「my graduation」などが発表されたJポップ全盛時代とも言える1998年。嵐「truth/風の向こうへ」「One Love」がオリコン年間シングルチャートのワンツーフィニッシュを飾るなど、CD売上停滞の時代にジャニーズが気を吐いていた2008年。

 歌謡曲からJポップ、レコードからCD、タイアップから複数枚商法……さまざまなマーケットの変化をサザンオールスターズというバンドは体験し、そのシーンの変化の中でも常にトップを走り続けてきた。「そのアーティストのキャリアを振り返ればポップミュージックの歴史がわかる」というタイプのアーティストが稀に存在するが、サザンオールスターズも間違いなくそのうちの一つである。

 前述のとおり今回ピックアップされた4曲だけを見てもその曲調は多種多様だが、このバラエティの豊かさこそ、サザンというバンドの大きな魅力だろう。「切なく美しい」と「明るくめちゃくちゃ」、そんな両極端の形容詞が自然と同居するところにサザンのサザンたる所以があるように思える。

 筆者がサザンと出会ったのは1992年だったが、切ない歌詞とムーディーなサウンドの「涙のキッス」、および呪文のような言葉が並ぶファンキーな「シュラバ★ラ★バンバ」(そしてそのカップリングにはサザン史上屈指の美しさを誇る「君だけに夢をもう一度」)という2枚のシングルのあまりにも大きな振れ幅に接して子どもながらに非常に驚いた記憶がある。綺麗なバラードや爽やかな夏の歌で広い支持を得るだけでなく、意味不明と言って差し支えのなさそうな楽曲も発表することで、リスナーの価値観を揺さぶる。「国民的」と称されるアーティストとしてこういったことがさらっとできる人たちは、あとにも先にもなかなかいないのではないだろうか。

 つい先日には3年ぶりのサザンオールスターズの新曲「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」が映画『空飛ぶタイヤ』の主題歌に決定し、6月15日から配信されることも発表された。七五調で進む歌詞や情緒溢れるメロディラインがどこか懐かしい雰囲気を感じさせつつ、<弊社を「ブラック」とメディアが言った>などとさりげなく時事ネタを混ぜ込むそのバランスは、流行と普遍性を行き来する桑田佳祐というソングライターの真骨頂である。現代社会を生き抜くビジネスパーソンを鼓舞する楽曲となっている「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて」だが、映画の予告編で聴ける楽曲の一部とサザンオールスターズのホームページで公開されている歌詞からは、清濁合わせて飲み込みながら何かに必死で取り組もうとする全ての人たちを勇気づけてくれるような、この曲の持つ力強さを感じられる。

映画『空飛ぶタイヤ』予告編②(主題歌入り)

 この先もサザンは、タイムレスな魅力を放つ楽曲とそのチャレンジ精神、そして尽きない創作意欲によって、多くのリスナーとアーティストの感性を刺激していくはずである。6月25日にはデビュー40周年を迎える2018年、バンドとしての活躍に注目したい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題になり、2013年春から外部媒体への寄稿を開始。2017年12月に初の単著『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』を上梓。

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