ツアー『太陽はまた昇るか。』追加公演「うんこ」
爆弾ジョニー、全て出しきった全21本全国ツアー追加公演「うんこ」 石井恵梨子が渾身のレポート
たとえば中盤の「ワンちゃん」はタイチサンダー(Dr)が歌う異色のナンバー。フロアのドラムセットからステージに上がった彼は、「オレと一緒に唄える奴いるか?」と客をけしかけ、挙手したファンと本気のデュエットをかましてみせる。カラオケのテイクなのでメンバーはタラタラ踊っている……と思いきや、サイドステージから突然巨大バルーンが! その中に笑顔のりょーめー! なんでこんなもん用意してんだよ。ていうか主役であるはずのタイチが霞みまくっているのが可笑しくって仕方ない。
続く「唯一人」でも挙手したファンにまるごとギターを任せ、りょーめーは野放図にステージを駆け抜ける。フロアへ大胆に飛び、さらには右のサイドステージも遠慮なく使う暴れっぷり。解き放たれた彼を見るのは何年ぶりだろう。間近に見たその目は、まるでガラス玉だった。エモーションなんか反映してない、俗世の喜怒哀楽にまったく惑わされない目。なぜ自分がこうなっているのかも理解してない野生動物みたいな。ピュアすぎて怖くもなるが、彼が理性をかなぐり捨てれば捨てるほど面白くなるのが爆弾ジョニーだ。全員が変顔をキメ、キョウスケ(Gt)が最高のギターソロを決めて、怒涛のパーティーが続いていく。
ファンクの名曲である「キミハキミドリ」。りょーめーは率先して盛り上げ役となり、ファンをステージに上げては「お前らオレの前で踊れ!」と王様のようにふんぞり返る。昔のキャラが戻ってきたと言いたくなるが、やはり違いはあるのだ。これ以外、セットリストに入った10代の頃の曲は「なあ~んにも」と「かなしみのない場所へ」のみ。ともに憂鬱を音楽で吹き飛ばし、深呼吸するように前向きな言葉を確かめていく、爆弾ジョニー流フォークロックの名曲である。それ以外はゼロ。「おかしな二人」も「へんしん」も「ギャルがゲル暮らし」もナシ。笑える曲だし、やればどれだけ客が盛り上がったかわからないが、必要ではないのだろう。おそらくは、音楽よりもふざけが勝ってしまうから。
リズム隊のタイチサンダー・小堀ファイアーがクリクリの坊主頭に、ギターのキョウスケが金髪にと、ルックスの変化も著しかったが、ロマンチック☆安田がキーボードと同じくらいの比率でギターを弾いていたこと、そしてりょーめーがほとんどの曲でギターを持っていたことが大きなポイントだ。キャラも服装もパートも違う5人が合体して無敵になる。そういう戦隊モノ風のストーリーが不要になっている。
だから最優先されるのは、りょーめー・キョウスケ・ロマンチック☆安田の三人がめいっぱいギターを掻き鳴らす爆音のカタルシス、そして細身の体から出ているとは思えないりょーめーの歌の強さだ。あくまで音が主役で、いい曲が主役。そのうえで5人は学園祭を再開している。前述したビール缶のマラカスも、友人ゲストミュージシャンが登場した「shall be a youth」の時に配られた。馬鹿をやるためにスタッフがクラッカーを配っていたのは昔の話。今では音楽のために馬鹿馬鹿しい手間をかけた楽器もどきが配られる。ここでも主役は音楽だ。まさしく高校の文化祭と大人の学祭の違い。馬鹿騒ぎしたいガキの集団ではない。音楽のために本気で馬鹿をやれるのが大人の嗜みである。そこに冠される言葉が「うんこ」。……最高じゃねえか。
長い夜がようやく明けた。最初はおっかなびっくりだったと思う。いきなりハイテンションにはもうなれない。だから、まずはいい曲をたくさん作りましょうという体で(当たり前だと言われそうだが、爆弾ジョニーはいわゆる「名曲」が作りたくて始まったバンドではない)。そして、実際にいい曲がたくさん生まれ、音楽的な可能性がどんどん見えてきた頃に、彼らは本来このバンドでやりたかったことを取り戻した。サルでもわかる興奮を。どこまでも間口の広いロックンロールパーティーを!
なんかもう、ただの新人でいいんじゃないかと思う。新人にしては曲数が多すぎるしテクニックもありすぎるが、だったらピカピカの新星ということで。一度離れた客が多いから、まだ動員力はないけれど、ゆえに可能性しかないってこと。多少のキャリアは0に戻し、若気の至りの珍曲も水に流して、今からしっかり輝いていけばいい。そういう新星のバンドに爆弾ジョニーはなっていた。結論をいうと、素晴らしいライブだった!
(写真=新保勇樹)
■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。