『Ctrl+Z』インタビュー

ユアネスが語る、楽曲の根底にある“センチメンタリズム” 「何か人生にいい影響を与えられたら」

 福岡を拠点に活動する4人組ロックバンド、ユアネスが初の全国流通盤『Ctrl+Z』(コントロール・ゼット)をリリースした。

 8曲入りのミニアルバムとなる本作は、フロントマンである黒川侑司(Vo/Gt)の伸びやかな歌声と、古閑翔平(Gt)の生み出す美しくも哀愁漂うメロディが、まず耳に飛び込んでくる。しかし聴き返していくうち、その後ろで鳴らされるバンドアンサンブルの超絶グルーヴに、何度も息を呑むこと必至。ポストロックやミクスチャーロックなど、様々なジャンルを横断するアレンジ能力は、新人バンドとは思えぬ完成度の高さだ。

 タイトルの『Ctrl+Z』は、いうまでもなくアンドゥ(やり直し)を意味するキーボードのショートカットコマンドであり、収録された楽曲の多くは、失われた青春や恋愛を歌ったものが多い。センチメンタリズムやノスタルジアを“核”に持つ彼らはこのアルバムで、この先何があっても、いつでも戻って来られるサンクチュアリを作り上げたのだろう。

 4月からツアーに臨むという4人に話を聞いた。(黒田隆憲)

「ノスタルジーな思いに耽るのが好き」

ーーユアネスは、福岡の音楽専門学校で出会った同級生によるバンドなんですよね。それぞれ、どんなきっかけで音楽に目覚めたのですか?

小野貴寛(以下、小野):僕は最初、ギターから入ったんです。中学の音楽の先生に「音感がいいからギターでも弾いてみなよ」と言われてギターを買って。初日にいきなり、GOING STEADYの「銀河鉄道の夜」を練習したのですが、6時間くらい格闘してたら弾けるようになって(笑)。でも、最初に飛ばしすぎたのか、その後しばらくギターを触らなくなっちゃうんです(笑)。で、代わりにドラムを叩いたら、そっちの方が楽しくて。しばらく両方練習していたんですけど、ある日B’zのライブへ行ったらサポートドラマー(シェーン・ガラース)のプレイに衝撃を受けて、そこから本格的にドラムをやるようになりました。

田中雄大(以下、田中):僕も最初はギターでした。姉がやっていたので家にいっぱいあったんです。それで僕も、色んな楽曲の耳コピとか独学でやっていたんですけど、あるときギターを持って鏡の前に立ったら、「ギター、ちっちぇえな」と思ってしまったんですよ(笑)。ベースの方がデカくていいなと。実際に持ってみたらいい感じだったので、そこからベースについて色々調べたり、ベースを意識しながら音楽聴いたりしていくうちに、かっこいいなとどんどん思うようになって、気がついたらこうなってました(笑)。

田中雄大

ーーどんな音楽を聴いていましたか?

田中:小学生の頃はBUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATION、ELLEGARDENあたりをよく聴いていました。ベースを始めてからは、Red Hot Chili PeppersやMuse、Arctic Monkeysとか。さらにバンドをやるようになり、自分でもメロディを考えるようになってからは、福岡や東京で今活躍しているインディーバンドもたくさん聴くようになりましたね。

古閑翔平(以下、古閑):僕は“音ゲー”がルーツです。高校生の頃めちゃめちゃハマってたんですよ。『DrumMania』というゲームをやっている時に、ギラギラメガネ団というアーティストの「繚乱ヒットチャート」という楽曲を知ったんですけど、ギターがめちゃくちゃカッコよくて。そこからギターをやりたいと思うようになりましたね。

ーー黒川さんは?

黒川侑司(以下、黒川):僕の家族は、おばあちゃんもお母さんもみんな歌を歌うのが好きな人たちで。自然と僕も歌うようになったんですけど、毎回ものすごく褒めてくれるんですよ。学校でも先生がやたら褒めてくれました(笑)。それで調子に乗って、ますます歌うことが好きになっていくんですけど。高校の学園祭では、コピーバンドを結成してボーカルをやったんですけど、その噂を聞きつけた古閑から、専門学校に入ってすぐ「バンドやらない?」って誘われて今に至ります(笑)。だから、これといって影響を受けたボーカリストもいないんですよね。誘われるがまま、ここまで来ただけで。

ーー音楽を始めたきっかけも、ジャンルも結構バラバラな感じですね。ユアネスを結成したときには、最初からやりたい音楽性は確立されてましたか?

田中:いや、バラバラでしたね。最初はスタジオにみんなで入って、リフから膨らませていったり、セッションしながらアレンジを練ったりしてみたんですけど、それだと収拾がつかなくて。やりたいことが全員バラバラだから、どうしてもとっ散らかってしまうんですよね。でも、古閑がメインで曲を書くようになってからは、世界観のようなものもある程度決まってきて。「ユアネスって、こういう音を出すバンドなんだな」というのが見えやすくなってからは早かったです。その上で、ほかの人からもらった評価で、自分たちを客観視していったというか。自分たちの良さにも気づけたところはありますね。

ーーユアネスの音楽の根底には、常にセンチメンタリズムやノスタルジアがありますよね。それがオリジナリティになっているというか。

古閑:ノスタルジーな思いに耽るのが好きなんですよね。昔を振り返って切なくなるとか、誰しもそういう感情ってあると思うんです。そこを追求するのが自分には合っていると思ったし、ユアネスの音楽を聴いた人が昔を振り返り、懐かしく思ったり切なく感じたりしてくれたらいいなと思っていますね。そういう歌詞の世界観は、結成したときから一貫しているかもしれないです。

ーー黒川さんは、古閑さんと一緒に歌詞も手がけていますが、センチメンタリズムやノスタルジアについてどう思いますか?

黒川:僕は……昔がすごく楽しかったんですよね。楽しい思い出がいっぱいあるので、正直あまり年を取りたくないな、大人になりたくないなっていう気持ちがまだずっと残ってます(笑)。できることなら、責任とかがあんまし自分に降りかかって来なかった中学生くらいに戻りたい。だって今よりずっと楽だったでしょ? いや、もちろん大人にならなきゃいけないんですけど、“あともう少しくらい甘えさせてくれないかなあ”っていう気持ちはあります。

黒川侑司

ーー今作には、浅野いにおの短編漫画にインスパイアされて書いた曲が、2曲(「あの子が横に座る」「Bathroom」)収録されています。彼の作品にもセンチメンタリズムやノスタルジアを感じるときはありますか?

古閑:それは間違いなくありますね。

田中:僕も浅野いにおさんの作品が好きで、高校生の頃から読んでたんです。それで、特に好きな短編作品の『世界の終わりと夜明け前』を、古閑の誕生日プレゼントにあげたんですよ。そしたら、その作品からインスパイアされて、楽曲がバババッと出てくるのを間近で見ていて。ああ、この人は僕が感じ取ることのできないメッセージをこの作品から受け取って、それを楽曲に昇華していくすごい人なんだな……と改めて思いました。そういうことができる人とバンドを一緒にやれているのは嬉しいし、ありがたいと思っています。

小野:僕は、古閑が浅野いにおさんの「東京」というお話にインスパイアされて書いた「あの子が横に座る」のサビを聞いたとき、鳥肌が立ったんですよ。小さい頃、家族と旅行した時の情景が鮮明に浮かんできて。ほんと、すごい歌詞だなって思いました。

小野貴寛

ーー話を聞いていて思ったのですが、音楽には人の記憶を鮮明に思い出させる効果があるじゃないですか。そういう意味では、ノスタルジーと音楽って親和性が高いのかなって思いました。

古閑:ああ、確かにそうですね。

ーーセンチメンタリズムやノスタルジアは、場合によってはネガティブに受け止められることもあると思うんですけど、それだけじゃないということを、ユアネスは楽曲で表現しているのかなと。

古閑:そうですね。嫌な過去と向き合うのは辛いですし、楽しかった過去も思い出すと切なくなるから嫌だという人もいる。僕だってもちろん、過去を振り返って辛い気持ちになるときもあるけど、でも、今の自分がこうして存在しているのは、昔の自分があったからだと思っていて。それをみんなに伝えられるようなアーティストになりたいんです。自分たちの楽曲を聴くことで、何か人生にいい影響を与えられたらいいなと。

ーー今、曲作りはどのように行っているのですか?

古閑:曲が浮かんだら、Cubase(DAWソフト)に打ち込んで、それをまず黒川に送って歌詞のイメージを伝えます。その後、2人で歌詞を書いて出来上がったデモを田中と小野に聞かせる。で、そこからは各々でアレンジをし、良いものは採用しながらまたさらに練り上げていきます。

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