香取慎吾は“年齢の重ね方”をポジティブに変える 横尾忠則との対談から感じたこと

 香取慎吾が、年齢の重ね方をポジティブに変えていくーー。

『芸術新潮』(2018年3月号)

 振り返れば、かつてアイドルと呼ばれる存在は10〜20代の若さが大きな魅力だった。だが、その概念を覆したのが香取を含む国民的アイドルグループだった。そして香取は、さらにその先へと進もうとしている。新しい地図をスタートさせて以来、インスタグラムなどSNSを解禁した香取これまで以上に、アーティストとして才能が開花されてきた印象がある。だが、アイドルとしての顔も変わらずに私たちを楽しませてくれている。そんな中、雑誌『芸術新潮』(2018年3月号、2月24日発売)で繰り広げられた、美術家の横尾忠則との対談は香取の生き方を因数分解していくような秀逸な特集だった。感じたのは、香取にとって、芸能活動ひいては彼の人生そのものが、彼のアートであるということだ。

横尾「大袈裟に言うと、人は遊ぶために生まれてきたんだから」
香取「その言葉、今の僕にぴったりです」

 ふたりの会話は、お互いを尊重するフラットな会話が心地良い。41歳の香取と81歳の横尾。対談は、香取が美術家としてのアドバイスを求めるのだが、そのまま生き方の相談にも通じる。「自分がしたいことをするほうがいいですよ」横尾の口から出る言葉は、決して導こうとしているのではなく、自然と香取自身を肯定していく。この日、香取は自分の作品を持参して、横尾のアトリエを訪れた。一度、車に乗り込んだにも関わらず、引き返してまで持ってきたという。作品を介すると、ふたりの距離はさらに縮まる。ランウェイモデルの足を中央に向けて放射線状に配置された、香取のコラージュ作品を見て横尾は「非常に身体的。忘れていたこと、学ぶべきことに気づかされるなぁ」としみじみ感想を述べた。

 横尾と香取は、多くの共通点がある。作風のバリエーションの豊かさ。設計図に従うのではなく湧き上がる衝動に突き動かされるスタイル。そして、最終的にどんな作品になるのかわからない柔軟性。そして、自ら多くを語ることよりも見る人に感想を委ねる余裕。その感覚が近いことを知ると、あえて香取に作品の説明をさせるおふざけのシーンも。

横尾「ぜひ説明を(笑)」
香取「えー、 これは美しい女性は花のようだから花のような形にしました」
横尾「嘘つけ(笑)」
香取「(笑)」

 まるでヤンチャなふたりの少年が、秘密基地で“大人ごっこ”をしているようなやりとり。もちろん、香取も横尾もそれぞれの道を極めた大人だが、このふたりからは、老いに対するネガティブな印象が全くない。年齢差も、別の視点から見られるという違いを楽しんでいるようだった。作品の色があせたら新たに色が塗れる。仕事がなければ本が読める、計画がないということはその日暮らしができる…… 聞き分けのいい大人になんて一生ならなくていい。ピーター・パンのまま遊ぼう、という横尾のスタンスは、“新しい地図” をスタートし<ずっとずっとこんなふうに遊んで生きられたら> と『72時間ホンネテレビ』のテーマソング「72」を歌った香取と重なる。生きた時代、触れた作品は、こうしてシェアしていくことができる。この世の面白いことは、人と触れ合うたびに広がっていくものなのではないか。 そんなことを感じさせる対談だった。

 アートも、新しい地図も、そして香取慎吾という人生も、完成が見えない香取の作品。もっと遊んでいい、もっと楽しめばいい。そう香取の心を解放しながら、きっと横尾自身も刺激を受けたことだろう。後日、横尾のTwitterには「40才差の香取慎吾さんとのロング対談だけれど若い人と接すると、この先きまだ長いと思っちゃう」とつぶやかれた。

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