RADWIMPSは映画『空海ーKU-KAIー』主題歌とどう向き合ったのか? 真摯なスタンスを読む
RADWIMPSがニューシングル『Mountain Top / Shape Of Miracle』を発表した。本作は日中共同製作の映画『空海—KU-KAI—美しき王妃の謎』の主題歌および日本語吹替版の挿入歌であり、両曲ともにカンヌ国際映画祭パルムドールやゴールデングローブ賞など、多数の受賞歴を誇る巨匠チェン・カイコー監督の依頼に応じる形で書き下ろされている。
映画のプロデューサー・椿宜和のコメントによれば、中国で映画『君の名は。』が大ヒットしていた昨年末、監督とKADOKAWAの取締役会長であり、製作総指揮の一人である角川歴彦との間で『君の名は。』の話題になり、その場でRADWIMPSの楽曲を聴かせたことから、監督がRADWIMPSに興味を持ち、今回のコラボレーションに至ったのだという。
その後、監督とバンドでディスカッションを重ね、今回の楽曲が完成。チェンは「野田洋次郎の歌はまるで、暴風雨の後の虹のように響く。虹は、強い風や雷鳴の激しさに揺らぐことなく、焦がされた世界を静かな美しさで彩るのだ(抜粋)」、野田洋次郎は「その圧倒的なセットやキャスト、映像技術が駆使されていますがストーリーの根幹は何百、何千年と変わることのない人間の本質的な美しさ、醜さ、理性と本能の間で絶えず揺れ続ける様でした。歴史大作ではありますが『今』の僕たちの物語だと思いました(抜粋)」とそれぞれコメントを寄せている。
実際の楽曲はというと、「Mountain Top」の序盤は物悲しいピアノとストリングスに始まり、途中からエレクトロニカ風の繊細なビートが加わる。そして、中盤から後半にかけて壮大な盛り上がりを迎えると、ラストは再びピアノとストリングスに戻り、静謐なエンディングを迎えるという構成で、ラストの<All the rest is now up to you/残りは君自身が決めればいい>というラインが何とも言えない余韻を残す。
一方の「Shape Of Miracle」も同様に物悲しいピアノの旋律で始まるが、中盤でピアノのリフレインと共にオーケストレーションが広がり、曲調も「Mountain Top」よりは穏やかで、やや明るめ。『君の名は。』で言えば、「スパークル」に近い一曲で、あの作品からの発展形のように捉えることもできる。
ここで注目すべきは、映画の主題歌が「Shape Of Miracle」ではなく「Mountain Top」だということ。コラボのきっかけが『君の名は。』だったことを考えれば、テイストが近いのは明らかに「Shape Of Miracle」であり、チェンのコメントの中の「暴風雨の後の虹」という表現も、その言葉をそのまま受け止めれば、「Shape Of Miracle」の方がイメージとしては近い。歌詞に関しても、「Shape Of Miracle」の方がストーリーやキャラクターの心情に寄り添って書かれていることが明確である。
しかし、決して作品に寄り添い過ぎない「Mountain Top」が主題歌に選ばれていることこそが、バンドと監督が真摯に作品と向き合ったことの何よりの表れであるように思う。野田と新海誠がぶつかり合いながら音楽を作り、作品自体にも影響を与えていた『君の名は。』に対し、本作はあくまで主題歌の書き下ろしであり、その距離感は大きく異なる。今回の場合、チェンはあくまで野田による作品の解釈を求めたのではないだろうか。
あくまで予想だが、「Mountain Top」で描かれている<I’m alone on a mountaintop/私はこの山の頂きにたった一人>というラインは、おそらく映画の舞台ではなく、空海が開祖である真言宗の聖地であり、空海が没した地でもある高野山のことではないかと思う。野田は主人公である空海の人生にスポットを当てることで、自身の解釈による「人間の本質的な美しさ、醜さ、理性と本能の間で絶えず揺れ続ける様」を描いたのでは。
過去にも「おしゃかしゃま」や「DADA」といった楽曲で<神>や<輪廻>に言及しているように、独自の宗教観を持つ野田だからこそ、監督とのディスカッションも踏まえつつ、今回の楽曲のテーマが生まれたのかもしれない。そして、過去にはなかったある種のストレートなメッセージというのは、『君の名は。』~『人間開花』を経た現在のRADWIMPSが、『空海』の持つメッセージと呼応したからこそ、生まれたものなのではないだろうか。
海外作品初主演となる染谷将太をはじめとした日中オールスターの俳優陣による演技や、東京ドーム約8個分という巨大セットと先端のCG技術を融合した映像美による壮大なスケールの作品に対し、ただ寄り添うのではなく、自らのスタンスで主題歌を作り上げたRADWIMPS。これもひとつの真摯なもの作りの姿だと思う。
■金子厚武
1979年生まれ。埼玉県熊谷市出身。インディーズのバンド活動、音楽出版社への勤務を経て、現在はフリーランスのライター。音楽を中心に、インタヴューやライティングを手がける。主な執筆媒体は『CINRA』『ナタリー』『Real Sound』『MUSICA』『ミュージック・マガジン』『bounce』など。『ポストロック・ディスク・ガイド』(シンコーミュージック)監修。
■リリース情報
『Mountain Top / Shape Of Miracle』
発売:2018年2月21日
価格:【CD】¥1,000(税抜)【7インチ・アナログ盤】完全限定生産 ¥1,500(税抜)
<収録楽曲>
01. Mountain Top
02. Shape Of Miracle
※7インチ・アナログ盤は、ダウンロードコード封入(ダウンロード有効期限:2018年8月19日)
■映画情報
『空海ーKU-KAIー美しき王妃の謎』
出演:染谷将太、ホアン・シュアン、チャン・ロンロン/火野正平/松坂慶子/キティ・チャン/チン・ハオ/リウ・ハオラン/チャン・ルーイー、阿部寛
原作:夢枕獏『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』(角川文庫/徳間文庫)
主題歌:RADWIMPS「Mountain Top」(ユニバーサルミュージック/EMI Records)
監督:チェン・カイコー
配給:東宝、KADOKAWA
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