高橋芳朗の新譜キュレーション:第6回
2018年はさらなる飛躍へ 気鋭のプロデューサー Kaytranadaへの期待
「ジュノアワード」や「ポラリスミュージックプライズ」といった本国カナダの権威ある音楽賞を立て続けに受賞した2016年の傑作デビューアルバム『99.9%』により、一躍トッププロデューサーの地位を盤石にしたKaytranada。昨年2017年にはMary J. Blige「Telling The Truth」やSnoop Dogg「Lavender (Nightfall Remix)」といったビッグネームの楽曲を手掛けたほか、ノンクレジットながらKendrick Lamarの傑作『Damn.』収録の「LUST.」にも参加。もはや「ポストJ. Dilla」という従来のイメージには収まりきらない活躍ぶりを呈しています。
今回のキュレーション連載では、そんなKaytranadaのここ数カ月のプロデュース作品を総括してみようと思います。3月16日にはMF Doomと共同でプロデュースしたBishop Nehruのニューアルバム『Elevators: Act I & II』のリリースが控えていたりと、今年さらなる飛躍が期待される彼の近作の傾向をつかむ一助になれば幸いです。
まずはMigosやYoung Thugと同じ<300 Entertainment>と契約したアイルランドはダブリン出身のラッパー、Rejjie Snowのメジャーデビューアルバム『Dear Annie』からリードトラックの「Egyptian Luvr」を。初顔合わせとなった2015年の「Blakkst Skn」ではエレクトロファンク調のビートを提供していましたが、今回はKaytranadaのシグネチャーサウンドといえるハウスフィールのあるディスコチューン。昨年のKaytranada仕事でいうと、同じラップ作品のLou Phelps「What Time Is It?」やBuddy「A Lite」に近いでしょうか。『99.9%』で最も人気が高かった「You're The One」の流れを汲むスムーズなグルーヴはR&Bリスナーからも大いに支持されそうです。曲のレイドバックしたムードを際立たせるDana Williamsのメランコリックなボーカルがまた格別。
続いては完全復調した感のあるCraig Davidのニューアルバム『The Time Is Now』より、GoldLinkをフィーチャーした「Live in the Moment」。2016年の前作『Following My Intuition』収録の「Sink or Swim」、そして『99.9%』での「Got It Good」に続き、ふたりのコラボレーションは今回で三度目になります。これも先の「Egyptian Luvr」と同様に典型的なKaytranada印の曲ではありますが、こちらはよりディスコ色が濃厚なつくり。モダンソウル/AORクラシックとして名高いThe Bendeth Bandの1981年作「I Was There」から引用した軽やかなギターのループが圧倒的な心地よさを提供してくれます。同じ「I Was There」をサンプリングしたMadlibの2010年作「May Result in Shock and Confusion」と聴き比べてみるのもおもしろいかも? 余談になりますが、客演しているGoldLinkのデビューアルバム『At What Cost』の序盤の3連打(「Have You Seen That Girl?」~「Hands On Your Knees」~「Meditation」)は、Sunni Colon「Little Things」と並ぶKaytranadaの2017年ベストワークと考えています。
次は、昨年夏のG-Eazyとのコラボ曲「Love a Loser」でカムバックをはたしたCassieのニューシングル「Don't Play It Safe」。Drake主宰の『OVO Sound Radio』がその「Love a Loser」を先行で紹介していたことにも象徴的なように、Janet Jackson~Aaliyahの系譜に当たるCassieの透明感のあるボーカルはアンビエントR&Bが完全にスタンダード化したいまこそ再評価されてしかるべき、と常々考えていたのですが、まさかこのタイミングでKaytranadaとのコラボレーションが実現しようとは。『99.9%』でSyd(The Internet)やAlunaGeorgeをゲストに招いていたKaytranadaの女性シンガーの声の好みからしてふたりの相性が悪いはずもなく、儚く揺らぐCassieの歌を光らせる新たなパートナーとして彼は適任といえるのではないでしょうか。この組み合わせでぜひまとまった作品をリクエストしたいところ。
女性R&Bシンガーをもうひとり、『99.9%』収録の「Leave Me Alone」にフィーチャーされていたKaytranadaと同郷モントリオール出身のShay Liaのニューシングル「Cherish」。これで彼女は昨年4月に発表したスムーズミディアムの「Blue」以降、疾走感に富んだモダンファンク「What's Your Problem?」、80'sムード横溢のアーバンスロー「Losing Her」と、4作連続でKaytranadaのプロデュース曲をリリースしていることになります(「Blue」はBADBADNOTGOODとの共同制作)。今回の「Cherish」は浮遊感のあるエレクトロソウルといった趣きで、これまでになくShay Liaのジャジーな魅力がうまく引き出されている印象。このままアルバムまでつなげていければ、Kaytranadaの歌心が前面に押し出された彼の新境地となる一枚になりそうです。なお、この「Cherish」はUSインディーのサンプラー的に楽しめるKitsuneのコンピレーションシリーズ『Kitsuné America 5, the NBA Edition』でピックアップされています。