大森靖子、音楽を介したファンとのコミュニケーション 『MUTEKI弾語りツアー』レポート

大森靖子、弾語りツアー最終公演レポ

 <あたしの有名は君の孤独のためにだけ光るよ>という「マジックミラー」の歌詞の一節が、筆者は大好きだ。なぜって、この日のライブのためにあるようなフレーズじゃないか、と思うからだ。最近恋人と別れたという観客にやってほしい曲を訊き、観客が「剃刀ガール」と答えると、大森本人がすぐそばで伴奏を務めて歌わせる。びっくりしたのは、このファンの女性の歌がうまく、しかも情念がこもった途轍もなくエモーショナルな歌声を聴かせたこと。失恋エピソードを具体的に披露したあとだったからなおさら響いたのかもしれないが、こういうサプライズがあるから大森靖子のライブはやめられない。

 ギター弾き語りの素晴らしさについてはあらためて指摘するまでもないだろう。大森は以前、弾き語りについて「コミュニケーション・ツールとしてのアンパイ」と言っていたが、だからといって安定しすぎてつまらない、ということが一切ないのが奇跡的。不安定な揺らぎや訛りも含むギター演奏はしかし、緻密な計算の上に成り立っているものだ。

 ライブ中には今夏に新作をリリースすると語っていた大森。次のライブは6月、インディーズとメジャーの両方のおいしいところを凝縮したようなステージを、彼女はこれからも見せてくれるだろう。そう信じてやまない。

■土佐有明
ライター。『ミュージック・マガジン』、『レコード・コレクターズ』、『CDジャーナル』、『テレビブロス』、『東京新聞』、『CINRA.NET』、『MARQUEE』、『ラティーナ』などに、音楽評、演劇評、書評を執筆中。大森靖子が好き。ツイッターアカウントは@ariaketosa

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