クラムボン・ミトの『アジテーター・トークス』:新春特別編 神前暁(MONACA)
ミト×神前暁が考える、それぞれの音楽的特徴と<物語>シリーズ楽曲の面白さ
「<物語シリーズ>でミニマル×会話劇という手法は定番化した」(神前)
ーーなるほど、流石の分析です……。話をお二人の交友に戻すと、神前さんとミトさんが初めて同じ楽曲にクレジットされたのはアニメ『偽物語 つきひフェニックス』オープニング曲の「白金ディスコ」でした(歌唱は阿良々木月火役・井口裕香、作詞・meg rock、作編曲・神前 暁。ミトはベースを担当)。
ミト:仕事が終わって真っ昼間から飲んで、駒沢通りを歩いてたら神前さんから「ベース弾いてくれませんか?」と電話があったのを覚えています。
神前:最初は打ち込みでと思っていたんですが、「やっぱり生が良いな、でも急遽ベースを弾いてくれる人なんて……、そういえばミトさんがいるじゃないか!」と思って電話しました。意外にもこれが初仕事だったんですよね。
ミト:最初に会ってから、2~3年は経ってましたもん。
ーー携わるまでの間、ミトさんは<物語>シリーズの音楽をどう見ていましたか?
ミト:他のコンテンツが数ある中で、あそこまで余熱が残るものはなかったような気がします。もうアニメも原作も最後までやりきる感じが出てたし、ますます広がっていくんだなとワクワクしていました。それに、音楽の使い方も違うなと。キャラソンでオープニングを、しかも話数で分けるというのは当時あまりなかったわけですから。
神前:今もそんなにないですよ(笑)。当時は増えるかなと思いましたけど、やっぱり難しいですよね。作品の顔を変えるって結構リスクもあるし、アニメーションを含めた作り手の体力的にもしんどいですし。
ミト:でも、あの展開があったから、シャフト(アニメ制作会社)が機動力を得た感じはしましたけどね。同じシャフトの『さよなら絶望先生』や『ひだまりスケッチ』を観ているときはそこまで意識しなかったんですが、<物語>シリーズには圧倒的なスピード感があった。話自体がそうだったからというのも大きいかもしれませんが。
ーーテンポ感のあるアニメーション、というのは<物語>シリーズの特徴でしたよね。その顔になり、ときにはサポートする音楽の存在も大きいと思います。
ミト:面白いことに話のスピードは強烈なんですけど、劇伴はそうじゃないんですよ。
神前:長尺かつミニマルな展開で埋めていくことのほうが多かったですね。カットが変わるのは早いけど、劇伴は同じ曲を長く使っていて。
ミト:当初からそういうリクエストでしたっけ?
神前:そうですね。むしろそれがキーワードで。「こういう曲を作ってください」というよりは、「ミニマル的な曲を多めに作ってくれたら良い感じで嵌めるので」という、普通のアニメとは違うリクエストでした。
ミト:ミニマルな音楽の隙間を、あの長尺のセリフで畳み掛けていったわけですもんね。フリースタイルラップみたいなものだ(笑)。でも、外枠の音源に情報量が多いと、言葉に集中できないというのは、ある種ヒップホップ的ともいえる考え方ですよ。トゥイスタの高速ラップとエミネムのラップはトラックの密度が違うのと同じ。エミネムに関してはDr. Dreの感性も入ってると思うのですが、リズムで攻めて和声は積まなくて、トゥイスタあたりの高速ラップは和声が厚い。トラックの情報量がなくて隙間があると、言葉にしっかり集中できるという点では似通ってますね。
神前:なるほど。これをきっかけにミニマル×会話劇という手法は定番化しましたよね。
ーーそれを踏まえてもう一度アニメを見返してみるのも面白そうです。<物語>シリーズの音楽は、作品の外にも確実に届いているし、アニメファン以外にも愛されているという印象なのですが、お二人はどう思っているのでしょうか。
神前:キャラクターソング担当という前提で話しますが、キャラクターのどこを切り出してフォーカスを当てるかという、アイデアレベルの部分でめちゃくちゃ気を使っていて。そこを面白がってもらえたのかなと思います。たとえば千石撫子の「恋愛サーキュレーション」(『化物語』オープニング・歌唱は花澤香菜、作詞はmeg rock、作曲・編曲は神前)だと、無口で引っ込み事案で可愛い女の子にラップをさせると思いついた時点で「勝ったな」と(笑)。そのうえで音楽的にキャッチーなものを作るんですけど、最初のスタートダッシュで決める方向性が物を言っていたのかもしれません。
ーーそのキャラクターの人格やイメージ、雰囲気と掛け合わせるジャンルや展開とか。
神前:フォーカスする部分も、内面なのか見た目なのか、ストーリーなのかでも大きく変わってきますね。
ーー<物語>シリーズで面白いのは、オープニング曲のキャラソンが登場人物ごとにいくつもあること。2曲目以降を書く際は、制作側としてもモードが変わるわけですよね?
神前:一般的なキャラソンは、1曲ないし2曲を一度に作って終わることが多いのですが、何年も続いて巡ってくると、キャラクターも成長しているし、作る際のイメージも違いますね。
ミト:ワンクールを総括したスケールの大きいテーマ曲ではなく、キャラクターや数話分のストーリーにフォーカスするわけですから、キャラソンとしての優位性は高いといえるのかもしれない。
ーーより絞りやすいし、コンセプチュアルになる。
ミト:そうです。アニメのオープニングやエンディングって、コンテンツの大枠からズレると誤解を受けやすいので。
神前:だからどうしても最大公約数的にならざるを得ないんですよね。そのなかでいかに作品全体のテーマにグッと絞れるかどうかが、トータルでオープニング・エンディングを作る際の難しいところなんです。それが上手い曲の代表は『まどマギ』(アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』)の「コネクト」(ClariSの楽曲で、同作のオープニングテーマ。作詞・作曲は渡辺翔、編曲は湯浅篤)ですね。<物語>シリーズはそのなかにおいてかなり特殊で、ワンクールに数曲あるから、遊びも入れることができる。1クールずっと「木枯らしセンティメント」(『恋物語』オープニング・戦場ヶ原ひたぎ役の斎藤千和と貝木泥舟役の三木眞一郎によるデュエット曲。作詞はmeg rock、作曲・編曲は神前)だったらダメだろうと思うし(笑)。
ーーそのなかでも神前さんが特に遊びを入れたと感じている楽曲は?
神前:やっぱりデュエット(「木枯らしセンティメント」)かな……(笑)。あとは作品からの要求も強かったんですけど、撫子の「もうそう♥えくすぷれす」(歌唱は花澤香菜、作詞はmeg rock、作曲・編曲は神前)も遊びの効いた楽曲ですね。可愛いイメージを確立してきたキャラクターに対して、それをどこまでぶっ壊せるかという挑戦でもありました。
ミト:「すごいメンヘラだ……」と背筋が凍る思いをした記憶があります。
神前:歌詞も全部ひらがなですし、狂気を感じますよね。「なでこメデューサ」自体も、西尾さんが可愛いと言われてきた撫子のイメージを壊したかったところがあると思ったので、そのノリを曲でも補佐しようと作った曲です。
ミト:そういう試みも受け入れられる土壌を作ったというのは、この作品のすごいところでもありますよね。あれを5年前にやっていたら危なかったかもしれない。許容力がユーザーにもなかっただろうし。
神前:コンテンツが浸透したからこそでしょうね。