BOØWYが解散ライブ映像『1224』の“空白の40秒”で埋めた最後の真実
1986年は激動の年である。シングル2枚、アルバム2枚、ライブアルバムとライブビデオのリリース。全国ツアーは翌年まで続くものを合わせて3本。7月には初の日本武道館公演を行った。このとき氷室が発した「ライブハウス武道館へようこそ!!」は今なお、語り継がれる名言であるが、正直、最近の若いロックファンにはいまいちピンとこないかもしれない。当時は今より武道館でライブを行うこと自体が難しく、歌謡曲やニューミュージック主流の歌番組全盛の時代に、ヒット曲もないロックバンドが武道館を3時間でソールドアウトさせ、ステージでそう言い放ったのだ。この時の最新シングル『わがままジュリエット』はオリコン39位、アルバム『JUST A HERO』は5位だったのだから、世間一般から見れば、まだ耳の早いロックファンにしか知られていない存在だった。そして、勢いづいた彼らはこの年11月にリリースしたアルバム『BEAT EMOTION』でついに1位を獲得し、12月には解散を決める。
1987年はすべてが終わりに向けての活動だった。外部には一切公表していないにも関わらず、解散の噂が流れた。アルバム『PSYCHOPATH』を提げた9月からの全国ツアー『ROCK’N ROLL REVIEW DR.FEELMAN’S PSYCHOPATHIC HEARTS CLUB BAND TOUR』の最終日は2年前と同じ場所、12月24日渋谷公会堂だったのだ。ツアーには日本武道館公演も組まれていたとはいえ、破竹の勢いの彼らのツアー最終日にしては手狭な会場である。ちなみに前年1986年の12月24日の会場は横浜文化体育館であり、ツアー最終日は武道館だった。だから敢えて渋谷公会堂を選んだ彼らの真意を、週刊誌や音楽関係者の予測などもあったとはいえ、勘のいいファンは察していたのだ。
そして、ツアー中に『PSYCHOPATH』から「季節が君だけを変える」がシングルカットされた。布袋が「もっと深い、俺たちの関係を言葉にして欲しい」とはじめて氷室に歌詞の書き直しを申し出たという曲。それに対し、氷室は「そういう歌詞にするんだったら」と、カップリング曲に提案したのは「CLOUDY HEART」だった。氷室の思い入れの深いラブソングをあらためてレコーディングし、布袋と一緒にユニゾンで歌ったことは、噂を決定付けるのには充分すぎたのかもしれない。
12月24日の渋谷公会堂にはチケットを入手できなかった大勢のファンが詰めかけた。場内の様子を知ろうともみ合いになり、正面玄関のガラスが割れるという事態にまで発展する。
ライブ冒頭から、体力が心配になりそうなくらい切れ味抜群の歌と動きを見せる氷室。ライブ中、布袋とは終始目を合わせない。アンコールの「MEMORY」でマイクスタンドに寄りかかりながら〈スーツケースにすべてつめこんで 気が変わらないうちにここを離れるよ〉と言葉を噛み締めるように歌い始める。いつもよりも情熱的にフレーズを紡いでいく布袋のギターソロに、そっと耳を傾け目を向ける氷室の表情はどこか寂しげで儚げだ。同じバンドメンバーとしての仲間意識ではない、いちアーティスト同士としてライバルとして、せめぎ合ってきた二人の関係性が垣間見えた気がした。「日本にギタリストは腐るほどいるけど、こんなカッコいいヤツはコイツしかいません。クレイジーギター布袋寅泰!!」お決まりのメンバー紹介は、普段は面と向かっては絶対に口にしない氷室が、布袋のことを“認めている”ことがわかる瞬間でもある。
『BOØWY 1224 -THE ORIGINAL-』に収められた「ONLY YOU」の中盤、何度も見慣れた場所で、フェードアウトせずにそのまま映像は続いた。失われたはずの空白の40秒。ドラム台にかけ上がった布袋が放心したようにギターを弾く。それを見た氷室が手の銃で布袋を撃ち抜き、お互い笑顔を見せ会った。その後、布袋は後ろを向いてギターをかきむしり、前を向き、また後ろを向いた……そして、腕で涙を拭うような仕草を……。それは本当にたった40秒ほどの時間だったのだろうか。ものすごく印象的なシーンだった。最後のピースがようやくはまって完成されたと同時に、これまで思っていたものとは違う『1224』になった気がする。
「ONLY YOU」を終えると、4人は楽屋に戻る。タバコや飲みものを手にする3人とは違い、神妙な表情でどこかを見つめる氷室が早々とステージへと向かう。その様子を見ながら「まだ言ってない」と内心ハラハラしていたという高橋。
「6年間……、6年間……、6年間、BOØWYをやってきました……」
そのときがきたーー。
「誰がなんと言おうと日本で一番カッコいいバンドだったと思います」
氷室は最後まで“解散”という言葉を用いなかった。その表情と、この日までの活動ですべて察してくれという思い、そしてそれを汲み取ったファンの美しい解散宣言だと思う。
「布袋寅泰、松井恒松、高橋まこと、氷室京介、We are BOØWY!!」
“誰がなんと言おうと日本で1番カッコいいバンド”の最後の真実。多くのロックファンに観て欲しい。
■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログ/twitter
■リリース情報
『BOØWY 1224 -THE ORIGINAL-』
発売日:2017年12月24日(日)
価格:Blu-ray(2ch/5.1ch)¥6,480(税込)
DVD¥5,400(税込)
Ultra HD Blu-ray +Blu-ray(5.1ch)¥12,960(税込)
<収録内容>
・本編
LIAR GIRL
ANGEL PASSED CHILDREN
BLUE VACATION
ハイウェイに乗る前に
GIGOLO&GIGOLET
PSYCHOPATH
CLOUDY HEART
MARIONETTE
わがままジュリエット
LONGER THAN FOREVER
季節が君だけを変える
WORKING MAN
B・BLUE
RENDEZ-VOUS
HONKY TONKY CRAZY
PLASTIC BOMB
BEAT SWEET
IMAGE DOWN
NO. NEW YORK
・アンコール
MEMORY
ONLY YOU
DREAMIN'
■関連リンク
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