山猿、カバー作『えんむすび』好調の理由は? SEAMO「マタアイマショウ」から紐解く
山猿が11月22日にリリースした初のカバーアルバム『えんむすび』が、各配信サイトにて大きな盛り上がりを見せている。
LINE MUSICウィークリーチャート1位、LINE BGM着うたチャート1位、iTunes総合ソングチャート4位、総合アルバムチャート5位、レコチョクジャンルチャート1位、総合チャート3位……といった具合に、主要サイトで軒並み上位ランクインを果たしているのだ。この状況に山猿もTwitterにて「ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!」とツイート。特に好調なのが、収録曲であるSEAMOのカバー「マタアイマショウ」で、山猿はSEAMOにこの吉報を一番に伝えたことも綴っている。
では、なぜ山猿のカバーした「マタアイマショウ」がこのような快進撃を見せているのか。
「マタアイマショウ」は、SEAMOが2006年にリリースしたシングル曲。着うた全盛期の時代、楽曲のトータルダウンロードは300万を突破し、その年SEAMOは『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)のステージで「マタアイマショウ」を披露している。そんな大ヒット曲の発売から11年。音楽の聴かれ方が、着うたからLINE MUSICやApple Musicなどのストリーミング配信に移り変わっているように、時が経てばリスナーも次第に世代交代をしていく。
今回山猿は「マタアイマショウ」に補作詞として、サビの歌詞を残し、Aメロ、Bメロと新たにリアレンジを施している。「切なくも前向きな失恋」という核になるテーマは変わらないが、過去を肯定し、互いに次の一歩を踏み出した結果の今をより浮き彫りに、山猿の歌詞は描いている。SEAMOも、山猿の「マタアイマショウ」に対し「全く違う素晴らしい曲に生まれ変わらせてくれた」とツイート。山猿が歌い続けている普遍的な“愛”というテーマと、大ヒット曲の“アンサーソング”という彼の愛ある挑戦が上手くハマりながら、また違った形の新曲「マタアイマショウ」として若い世代にも受け入れられているのだ。
加えて、山猿のファン層は、ライブで「キッズスペース」を設けていることからも分かる通りに、子供を連れて家族で山猿を聞くという層(着うた全盛期に青春を過ごした、20代後半〜30代後半)、そしてその両親の世代より若い、音楽配信が当たり前の時代に育った10代、20代が主流だ。その両世代にとって、「マタアイマショウ」は「懐かしい!」と「なにこれ、いい曲!」の狭間を絶妙に射抜いた楽曲といえる。
「マタアイマショウ」のヒットが牽引する形でカバーアルバム全収録曲が、LINE MUSICチャートにランクインしている。『えんむすび』というアルバムタイトルやエンドロール的位置に収録されている「Respect for you ~Outro~」で歌われているように、収録曲は山猿のリスペクトと彼が大切にしている“縁”が結んだ6曲である。山猿にとっての尊敬する先輩・SEAMOを始め、「め組のひと」の原曲を歌う鈴木雅之と山猿はメル友であり、「シングルベッド」を歌うつんく♂は過去に山猿の「桜色の記憶」についてツイートしたことがあった。まさに、山猿が歌うべくしてカバーした楽曲だ。
カバーとは、その楽曲の歌い手にリスペクトを示しながら、自身の楽曲へと昇華すること。このアルバムを通して、ファムが原曲を歌うアーティストに触れる機会もあるだろう。そうやって、縁が結ばれていくことで生まれる「繋がり」こそが、山猿が『えんむすび』に込めたメッセージのように思える。
■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter
■リリース情報
『えんむすび』
発売:2017年11月22日(水)
価格:¥2,037+税
<収録曲>
M1.マタアイマショウ
M2.DEAR...again
M3.め組のひと
M4.シングルベッド
M5.月光
M6.糸
M7.Respect for you ~Outro~