フェスを通じて現代社会を見るーーレジー著『夏フェス革命』よりイントロダクション公開

「フェス文化」を象徴するロック・イン・ジャパン

 前述のとおり、本書では1997年のフジロックを現代のフェスの歴史の起点としたうえで議論を進める。また、フジロックに代表される大型フェスを主に議論の対象とし(ついてはフジロック以前の野外イベントや小規模なレイブパーティーなどは本書では基本的には取り扱わない)、 第2章では4大フェスの一つであるロック・イン・ジャパンについてじっくり掘り下げる。

 なぜロック・イン・ジャパンにフォーカスを当てるかというと、このフェスがある意味ではフジロック以上に日本における「フェス文化」の一つの象徴となっているからである。超有名アー ティストから新人バンドまで幅広いラインナップ(日本のアーティストのみ出演)をカバーするこの巨大フェスは、朝の情報番組などのメディアでその様子が取り上げられることが多い。それによって、世間における「フェスとはこういうものである」というイメージの形成にかなり大きく寄与していると思われる。ゆえに、「ロック・イン・ジャパンについて理解する」ということは、「世の中に浸透しているフェス像について理解する」ことと比較的近しい結果を得られるはずである。 そういった考え方のもと、本書ではこのフェスの分析にまるまる一つの章を割く。

 一方で、これまで発表されているフェスに関する文献において、ロック・イン・ジャパンはあまり詳細に語られていない印象がある。それどころか、フジロック以前からの野外イベントの歴史を取り上げているような書籍の中では、「無視する対象」として言及されている雰囲気すらある。

 ロック・イン・ジャパン
 2000年8月12日13日茨城県ひたちなか市国営ひたち海浜公園で初開催。その名が二重に示すように、雑誌「ロッキング・オン・ジャパン」を編集発行する株式会社ロッキング・ オンの事業として、さらに日本の国内アーティストのみによるラインナップで開催を重ねる。 すいません、著者は全く未見です。
(南兵衛@鈴木幸一『フェスティバル・ライフ』マーブルトロン/2006年5月/P19)

 「メジャーなもの、商業的に成功しているものをスルーする」というのは音楽に関わる言説において比較的よく見られる光景である。特にフェスというものに「自主」「独立」「DIY」的な良さを見出す人々にとって、ロック・イン・ジャパンは「商業主義の権化」として唾棄すべきものに見えているのかもしれない。

 もちろんそのような気持ちもわからなくはないが、本書はそういった書籍とはスタンスを変えて、「超メジャーなものはどうやって超メジャーになったのか」というテーゼを正面からしっかり検証していきたい。それによって、小さなフェスの良さを語るところからは見えてこなかった「フェスと社会の関わり合い」に関する示唆が得られるのではないかと考えている。

音楽ライター兼戦略コンサルタントから見たフェス

 本論に入る前に少しだけ自己紹介をしておきたい。「レジー」などと名乗っているが、実際には生粋の日本人である。この名前はTwitterのアカウント名で、以前からこのアカウントで音楽に関する考察をよく呟いていた。2012年にそういった内容をよりまとまった形で発信するべくブログ「レジーのブログ」を立ち上げ、そこから縁あって現在ではブログと並行して複数の外部媒体に定期的に寄稿している。ではいわゆる「音楽ライター」を主な生業としているのかというと決してそうではなく、大学卒業後の2004年から今に至るまで、メーカーやコンサルティングファームで事業戦略や新規事業・新商品開発、マーケティング全般に関わる仕事に従事している。ここ数年は、平日は会社に勤めながら週末や出勤前後、および通勤電車の中で原稿を執筆するという生活を送っている。
 
 本書は、上記のような筆者のバックグラウンドをベースに、「音楽ライター」的な観点からの考察と「(戦略領域、マーケティング領域に関わる)ビジネスパーソン」的な観点からの分析を行き来しながら進んでいく。そのため、筆者としては「今の音楽シーンに関心のある音楽ファン」 はもちろんのこと、「(音楽そのものへの造詣は深くないが)世の中を騒がせるムーブメントとしてのフェスに興味のある人」「ビジネスパーソンとして現代社会における消費者の行動について考えたい人」にもぜひ読んでいただきたいと思っている。本書を通じて、そういった人々に世の中を見通すにあたっての新しい視座を提供することができれば幸いである。

■商品情報
『夏フェス革命 ー音楽が変わる、社会が変わるー』
著者:レジー
価格:1,600円(税抜き)
発売日:12月11日(予定)
判型:四六版
頁数:約224頁(予定)
発行:株式会社blueprint
発売:垣内出版株式会社
ISBN:978-4-7734-0505-7(C0073)

<目次>
はじめに
イントロダクション
・はじけなかった「フェス・バブル」
・音楽好きの理想郷から季節の風物詩へ
・フェスを通じて現代社会を見る
・「フェス文化」を象徴するロック・イン・ジャパン
・音楽ライター兼戦略コンサルタントから見たフェス

第1章 フェスは「協奏」によって拡大した
・典型的なフェスの風景
・フェスが提供する「3つの価値」
・最初は「豪華出演者によるイベント」だった
・多様なプレーヤーを巻き込む現代のフェス
・フェスを「協奏」する参加者
・誰もが想定顧客となるフェスマーケット
・ビジネスにおける「共創」と「協奏」
・プラットフォームとしてのフェス

第2章 ケーススタディ:「協奏」視点で見るロック・イン・ジャパンの歴史
・「世界有数のロックフェス」になるまで
・出演者は「ロック」でなければならないのか
・マスもコアも満足させるブッキング
・タイムテーブルはアーティストの「格」を示す
・ホスピタリティの追求
・「安全・安心」のためのダイブ・モッシュ禁止
・ユニフォームとしてのオフィシャルグッズ
・「一体感」の心地よさとその弊害
・DJブースと矢沢永吉から「一体感」を考える
・参加者によって「変化させられた」ロック・イン・ジャパン
・ロッキング・オンに備わる「協奏」のDNA
・「雑誌」から「フェス」へ

第3章 フェスにおける「協奏」の背景
・なぜ参加者が「主役」となったのか
・「ライブ以外」の楽しみ方の発見
・mixiの登場とセルフブランディング
・ファッション誌の参入、そして「夏のレジャー」へ
・『モテキ』で描かれた「恋愛の舞台」としてのフェス
・震災、SNS、スマホ、フェス
・ハロウィン、日本代表戦、フェス
・『君と夏フェス』『君とゲレンデ』
・インスタシェアを巡る争い
・フェスは時代の流れを先取りしていた

第4章 「協奏」の先にあるもの
・「フジロッカーズ」の高齢化と育成
・フェスで顕在化する2つの格差
・音楽シーンの中心はフェスになったのか
・タイムテーブルとヒットチャート
・「勝ち上がる」ための音楽
・「一体感」への問題提起
・「フェス」と「紅白歌合戦」
・「部屋でフェスが楽しめる時代」は来るか

おわりに
・音楽を「聴かなくてはいけない」のか
・プラットフォーム上位時代の行き着く先

あとがき

<内容紹介>
 音楽ブロガー・ライターとして人気を博すレジーによる待望の初著書。
 2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設し、現在は音楽媒体「Real Sound」「MUSICA」「M-ON! MUSIC」を中心に寄稿。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が、業界内外で評判を呼んでいる。また、普段はコンサルティングファームにて事業戦略立案、マーケティング戦略立案、新規事業開発などに従事している。
 日本のロックフェスティバルの先駆けとして1997年にはじまったフジロックフェスティバル。その後、ライジングサンロックフェスティバル、ロック・イン・ジャパン・フェスティバル、サマーソニックが開催され、2000年には現在の「4大フェス」が揃う。それから今に至るまで、「夏フェス」はどう変わってきたのかーー。
 今や夏の一大レジャーとして定着した「夏フェス」。豪華アーティストの共演が売りだった音楽ファンのためのイベントが、多様なプレイヤーを巻き込む「一大産業」にまで成長した鍵は、主催者と参加者による「協奏」(共創)にあった。世界有数の規模に成長したロック・イン・ジャパン・フェスティバルの足跡や周辺業界の動向、SNSなどのメディア環境の変化を紐解きながら、その進化の先にある音楽のあり方、そして社会のあり方を探る。

<著者紹介>
 1981年生まれ。海城高校、一橋大学商学部卒。大学卒業後の2004年から現在に至るまで、メーカーのマーケティング部門およびコンサルティングファームにて事業戦略立案、マーケティング戦略立案、新規事業開発、新商品開発などに従事。会社勤務と並行して、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が話題となり、2013年春頃から外部媒体への寄稿を開始。主な寄稿媒体は「Real Sound」「MUSICA」「M-ON! MUSIC」など。
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■イベント情報
レジー × 佐々木俊尚 トークイベント『夏フェスに見る音楽ビジネスの未来』
2017年12月14日(木)青山ブックセンター本店・小教室
時間:19:00~20:30
開場:18:30
料金:1,350円(税込)
定員:50名様

<受付方法>
・店頭:青山ブックセンター本店レジにて受付中
・オンライン:青山ブックセンター本店サイトにて受付中

<問い合わせ>
・電話:03-5485-5511/受付時間10:00~22:00

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